【ニューノーマル 新常態の観光戦略10】注目!ワーケーション元年 元旅行読売出版社社長兼編集長 神崎公一


 コロナ禍によって働き方が変わる中で、ワーケーションやコワーキングスペース開設が注目されている。定義はさまざまだが、コロナ禍で打撃を受けている旅館やホテルが企画するタイプと自治体が企業と連携して行うタイプに二分される。後者は、その土地の魅力を肌で感じてもらい、関係人口、理想としては定住人口増につなげたいという自治体の意図が見えてくる。

 この新たな働き方は、ワクチン接種が進み、アフターコロナ時代になって定着するのか、あるいは一過性の動きで終わるのかを考えてみた。

 あるホテルの企画担当は明言した。「コロナでお客さまが激減したので、細々とワーケーションに取り組んでいるが、この先、本腰を入れて展開していく予定はない」。さらにこう明かした。「当施設は自然環境に恵まれた立地だ。日本人、訪日外国人のお客さまが戻ってくれば、単価の低いワーケーションではなく、料理が売り物である当施設の宿泊業に戻りたい」。

 一方、伊豆半島南端、石廊崎に近い南伊豆町の旅館「らいずや」では、このほどインターネット環境を整備するなどして、コワーキングスペースを新設した。ただ、地域活性化のための場の提供がメーンで、リモートイベントや、南伊豆の魅力発信のために活用してほしいとの狙いがある。都内などからのワーケーションだけを目的とするのではないと言う。

 風光明媚な弓ケ浜海岸に近い同旅館は、これからの海水浴シーズンは満室が続く。同時にどこの宿泊施設にも当てはまるが、季節ごとの繁忙、閑散期はあるし、月曜から木曜の平日と週末の宿泊をいかに平準化させるかは古くからの課題だ。

 「らいずや」も例外ではない。近隣地区の利用を促進するとともに、そうした需要が少ない時は、コワーキングスペースを客室に転用できるような造りとしており、柔軟な対応をしている。

 福島県白河市に開設されたコワーキングスペース「ナカマチ24」は、JR東北本線の白河駅前の月額会員制施設で、フリーWi―Fiやプロジェクターなどの機器があり、24時間入退室が可能。ゲストハウスも備えている。移住相談も受けるという。まさに、地域交流や情報発信の場として活用しようという狙いだ。

 アフターコロナ時代となってもテレワークは存続するだろうし、ラッシュを避け自分の裁量で働きたいと望む人たちは着実に増えるだろう。しかし、5月29日発行の本紙の「ワーケーション 旅行会社の取り組み」の聞き取り調査からも、まだ全面展開とはいかないようだ。

 地域活性化をビジネスにつなげようと自治体、企業双方と接する機会が多い企業担当者はこう明かした。「自治体の意気込みと企業の意識には温度差が感じられる。ワーケーションの利点と、どの地域でどのような施設が提供されるのか、認知度を高めることが欠かせないだろう」。

 緒に就いたワーケーションやコワーキングスペースの行方を見守りたい。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長兼編集長) 

 
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