信州・善光寺の前立本尊御開帳が4月3日から6月29日まで行われる。それに先立ち、昨年12月初旬、都内で記者発表会が開催された。コロナ禍のため、21年春の予定が1年延期され、会期は1カ月延長という異例の日程となった。
筆者は前回御開帳に際し、14年7月の記者会見にも参加した。その時と同様、参拝客を集める巧みな仕掛けと広報戦略に今回も感心した。新聞記者、雑誌編集者として数えきれないほどの記者会見に足を運んだ経験から記してみた。
それは以下の4点だろう。(1)最大のマーケット・東京を意識し、都内で発表会を開催(2)善光寺への参拝にとどまらず長野県全体の観光誘客を見据えてアピール(3)かゆいところに手が届く説明と回答を用意(4)コロナ感染症対策を強調。
まず、東京を意識したこと。全国の観光地でよく耳にするのは「東京および首都圏からのお客さまに来てほしい」との思いだ。そのためには、情報を全国区ニュースとして拡散しなければならない。地元の長野市で会見すれば、東京のメディアの参加率は低くなる。まして外国メディアは足を運びにくい。共同や時事の通信社電は使えるが、自社の記者が直接得た情報とは異なる。
次に、長野県全体を見据えた集客について説明しよう。JR長野駅善光寺口からの表参道(仲見世通り)の催事や飲食・土産物店などの紹介は当然だろう。それに加え、善光寺御開帳奉賛会賛助会員である県内市町村の観光協会やコンベンション協会など37団体を巻き込み、オール長野で各地の見どころやおすすめコースを列挙している。長野市と善光寺だけで囲い込まないということだ。
観光地や旅館・ホテルは、往々にして囲い込みたがる。数年前、群馬県水上町のスキー場を取材した際、スキー場と温泉街が提携していると聞いた。リフトの半券を提示すると、温泉街で特典が受けられた。マイカーや新幹線利用のスキー客を温泉街に回遊させるかに知恵を絞っていた。
かゆい所に手が届くことは会見やプレゼンの極意だ。今回は質疑応答時間が限られていたが、前回は質問が相次いだ。地元の信濃毎日新聞や石川県の北國新聞、富山新聞などの記者が突っ込んだ問いを発した。北陸新幹線の金沢延伸と重なったため、善光寺側もメディアも力が入っていたのは当然だ。
それに対し、過去の御開帳時の調査結果をもとに、参拝者数、地域別の人数、滞在時間、経済波及効果などのデータを用いて回答した。当日に放映するテレビ、翌日には紙面化しなくてはならない新聞や通信社などにとって、「後日改めてお伝えする」ではお話にならない。コロナ感染症に関しては省くが、多彩な安全、安心策を披露した。
発表側の顔ぶれについても各分野のキーパーソンがそろっていた。御開帳の意義とコロナ対策などは善光寺の若麻績享則事務総長と林明晋法務局長、御開帳と地域経済、観光の連携は善光寺御開帳奉賛会の会長である北村正博・長野商工会議所会頭、副会長の鈴木栄一・ながの観光コンベンションビューロー理事長らという布陣。「どのような質問でも受けて立つ」と感じさせた。こうした会見だと、記事化しやすく、多くのメディアが取り上げるに違いない。
(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)