新型コロナウイルス感染症はテレワーク等を大きく広げました。また、会議等ウェブミーティングも身近なものとなりました。さらに、心理的に植え付けられた感染症に対する恐怖心は、出張ニーズに影響を与えた可能性も考えられます。そこで以下では、宿泊を伴う出張に関し、短期的な視点と中長期的な視点で、その必要性についてどのように考えられているのかを調査してみました(全国男女200名に対するインターネットアンケート調査、2021年3月、弊会調べ)。
ウェブ会議の影響で出張が縮小すると回答した人を見ますと、短期的視点では、「強くそう思う」と「そう思う」の合計が62.5%、「ややそう思う」まで含めますと80.5%という結果でした。一方、中長期的視点では、同「強くそう思う」と「そう思う」の合計で53%、「ややそう思う」まで含めて75.5%という結果でした。それら結果は、ウェブ会議では「意思疎通が不十分と感じる」結果、逆に出張ニーズが生じると考える人の割合を大きく上回っています。さらに、感染症の脅威からの出張ニーズへの影響を見てみます。短期的視点では、感染症脅威の影響により出張が縮小すると回答した人を見ますと、「強くそう思う」と「そう思う」の合計が46%、「ややそう思う」まで含めますと67%という結果でした。一方、中長期的視点では、「強くそう思う」と「そう思う」の合計で41%、「ややそう思う」まで含めて66%という結果でした。
中長期的視点と比較し短期的視点では大きな影響が予想されること、またウェブ会議の影響による出張ニーズ減退が、感染症脅威による出張ニーズ減退よりも大きく、ウェブ会議では意思疎通が不十分であると考え逆に出張が必要と回答した人の割合と相殺しても、市場に与える影響は相当大きい可能性が示唆されました。中長期的には、ウェブ会議の影響による出張ニーズ減退は若干落ち着くと予想されていますが、逆に、感染症脅威による出張ニーズ減退は、「出張は縮小する」と「強くそう思う」との回答者割合を見ますと、短期的には23.5%が中長期的には25.5%という結果であり、やや強まる可能性もあります。
出張に関し以下では特に「会議」目的での出張のみを取り上げます。例えば「会議」ではその目的が社内から対顧客、また重要度においても様々です。以下では、重要度を3段階に分け、且つグループ会社や関係会社、自社内での会議を想定した場合と、対顧客との会議に分けて、詳細に宿泊を伴う出張ニーズを調査してみました(全国男女200名に対するインターネットアンケート調査、2021年3月、弊会調べ)。まず、出張目的を、宿泊を伴うビジネス出張ニーズについて、①グループ会社等を含めた打合せや社内会議がある場合(「社内会議」)、②顧客等自社以外の会社との打合せや会議がある場合(「顧客会議」)、③顧客等自社以外の会社との打合せや会議がある場合(「顧客商談」)の3パターンについて、重要度については、3段階(重要ではない:レベル1、中間:レベル2、重要である:レベル3)を設けて調査を行いました。その前提とする環境については、新型コロナウイルス感染が収束し、出張してもよい環境であることとし、コロナ禍前の通常であれば宿泊を伴う出張していた内容との比較においての回答としました。まず、積極的に、「出張は必要」、あるいは「出張は不要」と回答した人を整理しますと、「社内会議」では、レベル1からレベル3で、平均値31.8%、約24%から37%が以前と比較し、感染症脅威がなくなったと仮に想定しても、今後出張は不要との回答でした。「顧客会議」では、平均値30.2%、同22%から37.5%、「顧客商談」では平均値25%、19%から31%という結果でした。重要な商談でも、レベル3、つまり重要性が高い場合であっても、19%が不要と回答しており、社内会議では、重要度がレベル3で24%が不要との回答でした。さらに、上記「不要」との回答に、「出張はやや不要」と回答した人を含めて回答平均値を整理しますと、「社内会議」で48%、「顧客会議」で44.8%、「顧客商談」で39.5%という結果でした。上記調査結果は、出張目的を「会議」に限定していますので、現地に赴かないといけないような研究、工場、現場管理等はこれまで同様のニーズがあるはずですが、ビジネス目的の出張ニーズを主要な需要源としていた宿泊施設については、今後懸念される市場規模縮小を補うような新たなターゲット市場の確認が求められる可能性があります。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史