【マンスリーリポート 観光の現場 32】宿泊業「特定技能」外国人の雇用


制度周知で好事例創出へ 初の在留許可も

採用活動、支援態勢が課題

 外国人の就労を拡大する新たな在留資格「特定技能」の制度創設から5カ月。対象産業分野の宿泊業では、4月に初の技能測定試験が日本国内で行われ、5月にベトナム、ネパール、中国など280人の合格が発表された。8月28日には合格者の中から、宿泊業で初となる「特定技能1号」の在留資格を許可された外国人が誕生した。技能測定試験は10月にも実施され、今後も合格者は増加する見通し。宿泊業界では制度を周知し、好事例を創出することで活用を進めたい考えだ。

 特定技能は出入国管理法の改正で創設。このうち特定技能1号は、業種ごとの技能測定試験に合格し、一定の日本語能力を持つ外国人などが対象で、最長5年の在留期間が認められる。受け入れ産業分野14業種の一つ、宿泊業では、旅館業法の旅館・ホテル営業の許可を受けた施設が対象。フルタイムの直接雇用で、従事する業務はフロント、企画・広報、接客、レストランサービスなど。

 宿泊業初の特定技能1号の事例は8月28日に出た。出入国在留管理庁が、ベトナム人1人に在留資格を許可した。観光庁によると、宿泊業技能測定試験の合格を経て、留学から特定技能1号に在留資格を変更した。受け入れ先は奈良県内の宿泊施設という。

 日本旅館協会、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟では、会員旅館・ホテルの外国人求人情報をそれぞれのホームページ(HP)に掲載するなど採用活動の支援に着手している。HPの求人情報を通じた各施設への問い合わせもあるという。採用に向けて外国人と接触している旅館・ホテルは複数あるとみられる。

 宿泊業初の特定技能1号の事例は誕生したが、業界全体としては新制度への「様子見」といったムードもある。日本旅館協会労務委員会の山口敦史委員長(山形県天童市、ほほえみの宿滝の湯)は「制度の周知と好事例の普及が必要だ。人手不足は間違いなく、事例が増えれば、一気に活用が進むのではないか」と話す。地方支部の総会や会報誌を利用して会員への制度周知を進めている。

 観光庁は今年度、特定技能の制度周知に関して旅館・ホテルを対象にセミナーの開催を準備している。併せて宿泊業での外国人材の活用について優良事例を調査し、宿泊業界に普及することも予定している。

 法務省によると、7月末時点で全産業分野での特定技能1号の在留外国人数は速報値で44人。山下貴司法相は8月2日の会見で「特定技能に係る(申請や資格変更など)手続きをとられた方は7月末時点で1100人を超えている。さらに各分野の試験合格者も2千人近くにまで達しており、これらを踏まえると、今後着実に増加していくものと考えている」と述べた。

 宿泊業の今後5年間の受け入れ人数の上限は2万2千人。宿泊業技能測定試験は、第2回試験が10月6日に国内8カ所で実施され、その後も国内外で実施される予定。合格者は着実に増加する見通しだが、旅館・ホテルで特定技能の活用を進めるには、HPへの求人情報の掲載などにとどまらない、採用活動に関する情報の提供や機会の創出が必要となりそうだ。

 採用活動には、紹介業者を利用する方法などがあるが、事業者選びや紹介料などのコスト負担に二の足を踏む旅館・ホテルも少なくない。宿泊業団体では、採用の促進に向けて旅館・ホテルと外国人のマッチングの場を設けることも検討。技能測定試験が海外で実施されるまでの間は、日本在留中の外国人が中心的な求人対象となるため、留学生などにアプローチする手法も模索している。

 加えて雇用した外国人に対する就業・生活支援をどのように実施するかが課題だ。出入国の際の送迎、住居確保や預貯金口座の開設などに関する支援、日本語学習の情報提供などが受け入れ旅館・ホテルに義務付けられている。旅館・ホテルで対応できない場合は、国に登録した登録支援機関に業務を委託できる。法務省のHPには、22日時点で1808の事業者が名簿に掲載されており、旅館・ホテルは費用を含めて自社に適した事業者を選ぶことになる。

 一方で旅館・ホテル、地域の側で自ら登録支援機関を立ち上げようという動きもある。例えば、日本旅館協会労務委員会の山口委員長の地元では、着地型旅行事業などを担う地域事業会社、DMC天童温泉を登録支援機関として申請する準備を進めている。

 山口委員長は「旅館・ホテルにとっては、費用を含めて安心して特定技能外国人を採用、雇用できる環境が重要になる。旅館・ホテルが連携して採用活動を行ったり、自ら登録支援機関を設立したりするなど、地域を挙げて取り組むことも有効な手立ての一つだ」と指摘する。

 また、宿泊業4団体では特定技能以外にも、技能実習法に基づく在留資格「技能実習2号」の対象職種入りの手続きを進めている。宿泊業を技能実習2号の対象職種に追加する省令改正に必要な「パブリックコメント」(意見募集)は6月に終了しているが、宿泊業の技能実習生向けの評価試験案などを検討中で、受け入れの開始までには一定の期間を要するとみられる。

 
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