商社も熱い視線 別府では施設整備着々
観光庁によると、1~9月の訪日客は2441万7800人で、前年同期比4%増となっている。日韓の関係悪化で韓国人の減少が目立ち始め、台風19号の影響も訪日機運に水を差しそうだが、いまのところ中国や台湾など有力国・地域は堅調に伸びている。ラグビーワールドカップ(W杯)出場国からの訪日客も大幅増だ。インバウンドの市場拡大機運は失せていないが、観光業界が熱い視線を向けるのが日本人を含めた富裕層だ。「まだまだ取り込めていない」との見方は多い。富裕層を取り巻く業界の動きを追った。
ちょっとした話題となったのが伊藤忠商事のインバウンドビジネス参入だ。同社は11日、カタログギフト大手のリンベルと、訪日中国人富裕層を対象としたインバウンド観光事業で業務提携したと発表した。
インバウンドの旅行消費額は18年全体で約4兆5064億円、うち中国人の消費額は1兆5370億円となっている。旅行スタイルは従来のモノ消費から、日本の文化や自然、歴史など、日本のコンテンツを楽しむコト消費に移りつつあるが、「中国人富裕層は特にその傾向が強い」と同社はみる。
業務提携により、「富裕層の潜在的なニーズを捉えた、日本の文化や伝統を体験できる企画や、宿泊、食事に関しても日本の食文化やおもてなしを感じられる特別なメニュープランを開発し、提供していく」という。
同社はアジア有数の大手複合企業の一つ、CP(チャロン・ポカパン)グループとも手を組んでいるが、同グループが保有する中国人富裕層のネットワークを活用した新たな旅行商品の企画・開発、および実証を行った上で、富裕層のニーズの検証や商品改善に着手、本格的に商品提供を開始する予定という。
ところで、富裕層はどのクラスをいうのか。どこに基準を置くかによって変わってくるが、日本の場合、「すぐに換金できる財産を1億円以上持っている人」という見方がある。その数、100万人強ともいわれる。また、日本人に限らないが、飛行機代を除き、1回の旅行で1人100万円以上消費する人も当てはまるとか。
その旅行スタイルはさまざまで、富裕層には衣食住全ての面で最高級を志向する「クラシックラグジュアリー」、ぜいたくよりも本物の経験を志向する「モダンラグジュアリー」の二つのタイプがあるとされる。共通するのは高級施設に泊まることのようだ。
日本には富裕層を満足させる高級宿泊施設が少ないといわれる。20年の東京五輪・パラリンピックをにらみ、東京ではホテル建設が進んでいるが、地方に目を向けるとその数は少ない。高級といわれる旅館にしても客室数が限られているのが実情だ。
そうした中、高級ホテル・施設の大型プロジェクトが相次いでいるのが大分県別府市で、テレビでも取り上げられた。
インターコンチネンタルホテルグループがこの夏、「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」をオープン。別府では初となる外資によるラグジュアリーホテルだ。また、星野リゾートは21年春の開業を目指し、今年6月に温泉旅館「界 別府」の建設に着工した。
地元の施設も負けてはいない。老舗の「別府 杉乃井ホテル」が数百億円をかけて大規模リニューアルする。25年の完工を目指しているが、このほど、新しい客室棟(本新棟)の新築工事に着手。地上8階建て、全155室の客室は21年夏に開業する。
ラグビーW杯では大分市の昭和電工ドーム大分で試合が行われ、別府でも出場チームが調整した。試合を観戦した外国人も別府に足を運び、知名度も上がった。「欧米や富裕層インバウンドを意識したインターコンチの進出や大型投資は地元の活性化につながる」と期待も大きい。
一方、富裕層の外国人をどう増やすかという視点で取り組んでいるのが日本財団だ。ターゲットは日本文化に興味を持つ外国人で、寺院などの歴史的建造物に滞在しながら、他では経験できない限定的なプログラム提供を目指す。
16年に「いろはにほんプロジェクト」を立ち上げ、今年6月には課題や今後の展開について話し合う有識者会議を設けた。観光庁や文化庁、民間事業者に加え、真言宗総本山・仁和寺の関係者も出席し、意見を交わした。
日本に大きな金を落とす富裕層の取り込みはこれから本格化しそうだ。国内だけではなく、他国との競争も視野に入れた対応が求められる。
杉乃井ホテルは訪日の富裕層の取り込みを視野に入れ、大規模改修に着手