ワーケーション 政府が肩入れも需要見通しづらく
新型コロナウイルスの流行は日本人の働き方に一石を投じた。特に、デスクワークについてはパソコンと通信環境があればどこでも仕事ができることを示した。旅行や働き方の新しいスタイルとして「ワーケーション」や「ブレジャー」(出張前後に休暇をとって余暇を楽しむこと)などが注目され、観光業界も関心を寄せる。政府も推進に乗り気だ。「本当に浸透するのだろうか」といった冷めた見方もあるが、働き方に変化の兆しが出ているのは間違いない。
政府は7月27日、観光戦略実行推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開いた。菅長官は、リゾート地や温泉地などで余暇を楽しみながらテレワークで仕事をするワーケーションや、そうした地域に企業の拠点を設置する「サテライトオフィス」を普及させるため、滞在先で仕事ができるよう、Wi―Fi整備を支援するとした。
同会議では観光庁や環境省、和歌山県、JTBなどが出席し、ワーケーションに対する取り組みを述べた。観光庁は環境構築のため、宿泊施設へのアドバイザー派遣や施設改修などを支援するとした。また、宿泊施設の取り組み事例も紹介。
それによると、嬉野温泉和多屋別荘(佐賀県嬉野市)は施設内の一室をリノベーション、オフィス用に改装した客室には電源設備や休憩用のレストルームを完備。海と幸とやすらぎの宿海月・海島遊民くらぶ(三重県鳥羽市)はワーケーション滞在中に旅館が地域と旅行者をつなぎ、無人島ツアーなど非日常体験の提供を含めた地域でのライフスタイルをコーディネートしている。
環境省はコロナの流行以降、感染リスクの低いキャンプ場などの自然志向の高まりとテレワークの定着が進み、ワーケーションの機運が高まっていると指摘。その上で、国立公園や国民保養温泉地のキャンプ場、旅館・ホテル、DMOなどが行う(1)ワーケーションツアーや子ども向けプログラムの企画・実施(2)プロモーションの実施(3)Wi―Fi整備―を支援するとした。
ワーケーションを積極的に推進している和歌山県。資料によると、2017年度からプロジェクトを開始。3年間で104社・910人がワーケーションを体験し、55事業者が地域での受け入れサービスを展開している。
仁坂吉伸知事はワーケーション自治体協議会(WAJ、1道9県81市町村が参加)の会長を務めているが、WAJとして、政府におけるワーケーション推進本部(仮称)の設置や、アドバイザー制度、推進大賞の創設などを要望した。
同会議の報告とは別に、ワーケーションの事例を見ると―。
▽神奈川県箱根町の吉池旅館は、家族などと一緒に泊まる場合にテレワーク用の部屋を1室無料で用意するプランを企画、9月18日まで販売している。
▽マイステイズホテルグループは6月末まで、76施設で「テレワーク応援プラン」を販売。日中の勤務時間に客室を利用できるデイユースプランと、2泊以上からの連泊プランを設定。デイユースの場合、ホテルによっては午前7時から最大15時間滞在でき、料金も税込み3千円と安めに設定した。
▽福島県は20年度からワーケーションのモデル事業を始めるという。地元紙によると、浜通り、中通り、会津の3地域から観光地を選び、モニタツアーを行う。拠点となる宿泊施設で仕事をする際に欠かせないオフィス環境、通信設備などの整備を補助する。
感染拡大を防ぐため、政府の4月の緊急事態宣言を受け、テレワークを導入する企業が増えたが、解除後は元に戻った企業もある。
東京商工リサーチの調査(7月14日、1万4602社対象)によると、在宅勤務・リモートワークを「現在も実施中」は31.0%、「実施したが現在は取りやめた」26.7%、「一度も実施していない」42.2%だった。
旅先で休暇を楽しみながら仕事をすることでリフレッシュ効果が期待できるが、旅先などでの労務管理は難しいとの指摘もある。また、ワーケーションを活用できるのは一部の人たちで、エッセンシャルワーカーと呼ばれる生活に必須な仕事に従事する人たちは持ち場を離れられず、ワーケーション需要はそう大きくはないとの見方の一因になっている。
仮に、ワーケーションを導入する企業が増えれば、候補地として手を挙げる自治体も増え、競争も激しくなる。受け入れ環境の整備を含め、どう優位性をアピールしていくのかも重要になってくる。ビジネスチャンスと捉えるかどうか、冷静な判断もまた必要だ。
環境省は7月、東京の新宿御苑でワーケーション体験を実施(同省HPから)