【一寸先は旅 人 宿 街 19】旅の朝は散策 外国人にもお薦め 神崎公一


 信州に移住した知人の古民家に10月半ばの3日間、泊まらせてもらった。彼が仕事に出かけ後、近所を散歩した。寒くもなく、暑くもなく、少し汗ばむ絶好の季節だ。かなたの北アルプスの頂にはうっすらと雪が張り付いている。足元にはどんぐりが落ちている。鈴の音が聞こえたのは、犬の散歩の女性。「クマ除けなんですよ」と言われ、ドキッとする。

 さて、散歩について書いたのは、旅先で宿の周辺を歩いてみてはどうかとの提案をしたいからだ。ただ、やみくもに歩くのではない。それもいいが、先達がいればもっと楽しい。

 旅館やホテルで朝食を済ませ、チェックアウトをする。そのあとに、どこに行こうか迷った末、早めの昼食を取って、渋滞にはまらないうちにと、帰路についてしまうことも多い。マイカーの旅ではない場合は、見所を巡るバスなどを使った移動が面倒なので、なおさら帰宅が早くなる。

 このような時、チェックアウト後に宿の周辺を巡る散歩ツアーがあれば参加してみたい。おにぎり程度のランチ付きで千円くらい徴収しても参加者はいるのではないか。観光客があまり立ち寄らない穴場の食事処で早めの昼食というのもいい。

 宿泊施設の人手不足を承知の上でのことだが、案内役が1人ついて周辺を巡るミニツアーを作ってみる。地元のシニアに依頼するのも手だ。宿泊客が多い週末や祭日限定でも良いかもしれない。道祖神が立っていたり、樹齢数百年の古木や謂れのある神社仏閣に出会ったりするかもしれない。意外な所にある足湯に漬かるのも得した気分になる。農作業や山仕事をしている地元の人との会話も弾むかもしれない。マイカーでは決して出会えない光景や周遊バスでも通り過ぎてしまう何かがあるはずだ。

 こうした散策はどこかで聞いたことがあると思ったら、エコツーリズムが提唱する地域の歴史や文化などを知る「お宝探し」だった。お宝探しは、地元の人たちが誇りに思えるような見所や暮らしぶりを案内することで、旅行者とその土地の素晴らしさを共有しようという試み。

 お宝探しでは岐阜県下呂温泉の「筋骨(きんこつ)」といわれる裏路地を巡るツアーが有名だ。江戸時代に飛騨街道の宿場町、金山宿として栄えた地域は、当時の面影が残っている一帯。家並みの間を迷路のように細い道がくねくねと通り、そこを歩く「筋骨めぐり」と呼んでいる。由来は筋肉と骨が絡みあっている人体の造りのような小道を歩くからだといわれている。

 観光客が訪れにくい筋骨を歩けば、金山宿の名残りだけでなく、石の階段や軒と触れそうになる小道など昭和の懐かしい景色が映画のセットのようにたたずんでいる。ガイド付きツアーに加われば、効率よく筋骨めぐり楽しめ、食べ歩きの立ち寄りスポットもご案内してくれるという。

 そしてもう一つ。全国に35カ所ある休暇村の一部の施設では、宿泊客を対象とした「朝のお散歩会」を行っている。これは朝食前に休暇村スタッフらが同行して、30分から1時間程度、施設の周辺を散策して自然を満喫する。休暇村は連泊客が多いため、あわただしくチェックアウトをする必要がなく、2日目の日程に余裕があるためという。1泊でも参加できる。筆者も参加した経験がある。朝食後の腹ごなしにもなり、何とも爽快だった。「朝のお散歩会」は、着地型ツアーの一種かもしれないが、無料という点、それほど時間を要しないことなど、気軽に参加できるのが特徴といえる。

 コロナ禍前から、インバウンド(訪日外国人)は、定番の観光地から地方への分散が進んでいる。観光庁もこれを推進している。散策だけでは経済波及効果は大きく期待できないが、外国人にとってもこうした手軽な散策は、日本の旅のささやかな思い出になるに違いない。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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