【一寸先は旅 人 宿 街 23】収集魂そそる御朱印、鉄印、御宿場印 神崎公一


 コロナ禍が猛威を振るっていたころ、在宅を強いられ自宅周辺をよく散歩した。ただ散策するのではなく、1万分の1の地図をコピーして歩いた道を赤く塗りつぶしていった。2、3カ月ほどで赤線が葉脈のように地図に描かれ、それが増えていくのが楽しみとなった。自宅近くには、公園や寺、江戸時代の大名屋敷跡が多かったし、それにちなんだ坂道には来歴を記した看板があり、ランドマークになった。

 やみくもに歩くのではなく、赤線塗りつぶしの散歩は楽しい達成感が味わえる。同じ道順では赤線は増えないので、今回は一本裏の道にしようとか、あえて遠回りをしようかなどの工夫も凝らした。

 こうした目的を持った旅というか、道行きは洋の東西を問わず行われてきた。その典型が四国八十八か所の霊場巡りや千年以上の歴史のあるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラのキリスト教巡礼路だろう。巡礼ではないが、東海道五十三次や木曽路を歩き、ブログを書いている友人もいる。

 お遍路やお寺巡りでは御朱印集め、街道歩きではスタンプ集めもちょっとしたブームで、歩いた証しである分厚い御朱印帳やスタンプ帳を見せてもらったこともある。

 御朱印帳にヒントを得たのか、筆者の古巣の旅行読売出版は、2020年に、第三セクター鉄道等協議会傘下の鉄道会社と読売旅行などと連携して、「鉄印帳」企画をスタートした。指定の鉄印帳を購入して、鉄道各社の指定窓口で御朱印ならぬ鉄印を記帳料を払い入手する。点から線への広がりによって、地方鉄道の利用者が増え、観光にも貢献する事業だ。マイカーでの鉄印集めはそぐわない。

 収集魂に訴えるのが狙いだ。切手や古銭、近年大人気の野球やアニメのトレーディングカード集めは自宅や通販で買うこともできるが、御朱印や鉄印集めは現地に足を運んで手に入れなければならない。その分ありがたさや達成感を得られる。地域経済にもささやかに役立つ。

 そんなことを思っていたら、2月16日の日本経済新聞で、東京都足立区の足立成和信用金庫が「御宿場印(ごしゅくばいん)めぐり」を発案し、展開しているとの記事を読んだ。

 足立区には五街道の一つ、日光街道最初の宿場「千住宿」があった。それにちなんで街道を歩きながら「御宿場印」を集めるプロジェクトだ。行く先々で食事をしたり、お土産を買ったりして楽しむ。コロナ禍で痛手を被った地方の商店街ににぎわいを取り戻せるのではないかと評判を呼び、「御宿場印」企画は会津西街道や東海道、甲州街道、奥州街道が通る地域の信金や地元企業の参加も増えたという。地域経済の担い手、信用金庫の面目躍如である。

 昔から親しまれてきた巡礼の旅にヒントを得て現代風にアレンジして生まれたコト消費企画。ひとり旅でもよし、少人数のグループでもよい。大人数でバスで巡るというのでは風情がない。訪日外国人観光客にも、受けるかもしれない。まだまだ、こうしたお宝は埋もれているに違いない。知恵の絞り方を期待したい。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)


    

 
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