【一寸先は旅 人 宿 街 24】観光地の昼食難民とインバンド丼 神崎公一


 東京都心のオフィス街の昼時。多くのサラリーマンたちが昼食のために繰り出してくる。人気の飲食店には長い列ができている。限られた昼休みを有効に使いたいと弁当を買って、オフィスやビルの谷間の緑地で食べる人たちもいる。昼食難民の群れだ。

 静岡県伊東温泉で昼食難民の1人となった。ホテルに2泊して部屋で正午過ぎまで仕事をした。その後、昼食は伊豆ならではの新鮮な魚を食べさせる店でと探し歩いてみた。しかし、ランチ営業やっていない店や定休日なのか閉めている店が目立った。早く見つけないと午後の休憩に入ってしまうと慌てた。筆者と同じように店探しをして歩き回っている観光客と多く出会った。オフィス街でもないのに昼食難民に出会ったのは驚きだった。

 結局、30分近く歩いたあげく、JR伊東駅近くの和洋中華何でもありの食堂に落ち着いた。そこには宅配便やタクシー運転手などに加え、歩いている最中に見かけた観光客も席についていた。量も多くうまい店だったが、地元の魚の昼食を食べたかったなと思った。夕食は昼のリベンジにと刺し身とささやかな期待を胸に伊東駅の観光案内所に立ち寄り、食事処の地図をもらった。そのついでに、「今日は定休日ですかね。閉まっている店も多い」と尋ねたら、窓口の女性は苦笑まじりに「閉店してしまった飲食店も結構あるんですよ」と教えてくれた。

 訪日外国人観光客でにぎわう京都や鎌倉などはオーバーツーリズムが深刻な問題になっている。観光庁は、その対策として一部の有名観光地への集中を避け、全国各地への分散を誘導する政策を打ち出している。しかし、伊東市を見る限りオーバーツーリズムの懸念は全くない。これは喜ぶべきことなのか、それともインバウンド需要の恩恵にあずかっていないと悲しむべきことなのか。

 同じことは昨年12月初めに訪れた。千葉県の外房に位置する勝浦でも同様だった。勝浦には子供の頃、海水浴で何度か訪れた思い出があり、街がにぎわっていたと記憶がある。しかし、JR勝浦駅を出るとなんとも閑散としていた。

 ここでも昼食には苦労した。寂しげな駅前の風景に心配になり、事前にネットで目星をつけていた魚市場近くのマグロ丼の店は大正解だった。もっとも道に迷い30分近く歩いてしまった。マイカーがあれば、少し遠出しても、店が探せるが、列車を利用した場合は、それもできない。伊東温泉でも、海岸のロードサイドにはいくつか魚を食べさせる店ののぼりがはためいていたが。

 数年前の三陸取材では、こんな経験をした。地元の観光担当者から昼食マップをもらったが、海鮮丼などが3千円近かった。家族4人なら1万円を超えてしまう。まして夕食は海鮮尽くしだろうから、そばや手軽な丼物でもよかった。

 インバウンド丼とやゆされるほど高額なランチが登場している。円安の結果、外国人観光客にとってはさほど負担ではないのかもしれない。庶民感覚とは程遠い高価な飲食費。そして伊東温泉で目の当たりにした昼食難民。観光と食の関係を改めて考えさせられた。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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