【一寸先は旅 人 宿 街 25】会食ハラスと増えるひとり旅 神崎公一


 新年度が始まり、新入社員や転職組など新たな顔ぶれがそろったことだろう。彼らを昼食に誘うと、このようなやり取りとなる。「急ぎの電話(あるいはメール)を待っていますから」や「今日は食欲がなく軽く済ませたいので…」。極端な場合は、「ランチに付き合うのは業務命令ですか?」などと言われ、二の句が継げない。感染を恐れて、コロナ禍後、ひとりランチはいっそう増えているようだ。

 昼食でこれだから、飲み会などもってのほかで、若者たちの間では「会食ハラスメント」が取りざたされているのには驚いた。

 宴会=会食が楽しみと筆者が肯定的に考える社員旅行。観光関連の授業を受け持っている大学で、これについて尋ねたら「行きたくない」や「なぜ、休日をつぶして職場の人たちと過ごさなくてはならないのか」などの声が圧倒的だった。

 さて、話を旅行に転じると、十数年前から「ひとり旅」が広まっている。誰にも気兼ねすることなく、自由気ままに旅を楽しもうというキャッチコピーで旅雑誌がたびたび特集しており、定着した感がある。

 旅館やホテルも年末年始やゴールデンウイーク、大型連休など繁忙期を除いて、おひとり様歓迎プランを打ち出している。2人利用より高い価格設定の場合もあるが、1人でも同一料金もあるようだ。バスツアーもおひとり様限定商品をそろえている。これも本来は2人掛け座席を1人で独占するわけだから、バスの乗車人員が少なくなる。旅行者、つまり需要サイドが単独旅を好む傾向があるため、応じざるを得ない。空室、空席より、1人客でも宿泊してもらおうというのが実情だろう。

 古巣の旅行読売出版で実際に取材した話を紹介しよう。ある営業管理職のキャリアウーマンは時たま、金曜に仕事を早めに切り上げ、定宿にしている近場の温泉に直行する。朝食付きプランで、温泉に浸かり、エステを利用して軽く飲んでゆっくり休む。翌日は観光をするでもなし、レイトチェックアウトをして、少しぜいたくな昼食をとり帰宅。翌週からの激務に備えるのだという。

 こうした場合、急に思い立って出かけるのだから、相手がいては日程調整が面倒だし、気も使う。いつもの定宿に付き合ってもらうわけにはいかない。思いたったら出かけられるのがいいのだという。

 ”会食ハラ”やひとり旅を批判する気は毛頭ないが、集うことによって得られるメリットは多い。今は他人と共に過ごし語ったり、冗談を言い合ったりするより、パソコンやスマホを相手にし、簡単に情報が手に入る時代である。1人なら他人との間の取り方に気を使う必要がない。

 筆者は取材では同行者なしだが、旅では観光客や地域の人たち、宿泊施設の従業員と会話を交わすことを楽しみにしている。海外では、ちょっとしたきっかけで知り合った1人の旅人同士で食事を共にして旅情報を交換する。何だか寂しい時代になったなと、今さらながら痛感する。

(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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