【一寸先は旅 人 宿 街 27】ああ、映えスポット狂騒曲 神崎公一


 旅館やレストランなどで、料理が運ばれてくると即座にスマホで撮影する。SNSの映えスポットには長い列ができている。こうした光景はごくありふれたものとなっている。

 毎日の食事を全て撮影し日記代わりにする人や、自分のブログに訪れた土地や飲食店を頻繁にアップする人もいる。美術館や博物館でも、フラッシュ禁止などの条件をつけ、展示物の撮影を認め、情報発信を期待するケースも増えてきた。撮影禁止が一般的だった時代を思うと様変わりだ。観光地でもここぞというスポットに掲示板を立て、「この方角で撮影するとナイスショットが撮れます」とアピールしている。

 そんな中で、観光関連の講座を教えている短大の学生が面白い作文を書いてきた。彼女自身もスマホによる撮影は動画を含め好きである。こう断った上でこんな事実を披露した。あるテーマパークで目にしたことだという。

 彼女が目撃したのは、来園者がおそろいの服装で映えスポットの前で踊り出し、それを動画に撮ろうという人たちで混雑したと記す。押し合いへし合いし撮影する人たちで、幼い子供に思い出の一コマを見せたいと待ち構えていた家族連れはがっかりした表情だったそうだ。

 動画を含めた撮影は、今や若者だけではなく、世代を超えて一般的だ。しかし、純粋に風景やパフォーマンスを見たい人にとっては、スマホを手に前に出てくる人たちは、なんとも邪魔で目障りな存在にちがいない。

 筆者も取材先で撮影しようとして、カメラを構えている前に立ちはだかったり、無神経に横切ったりしてスマホをかざす人たちには閉口した。強く抗議するわけにはいかないが、この一瞬が記事では欠かせない1枚となるのだから。

 学生の作文をもとに話し合ってみた。双方が楽しめるようなルールというものがないのだろうか。さらに彼女が調べたら、テーマパークの中には撮影に関するルールを取り決めている施設もあり、ホームページなどで明らかにしている。事故防止のため、アトラクションなどに乗車中の撮影は控えてほしい。三脚や自撮り棒など補助機材を使っての撮影は場合によっては中止をお願いすることがあるとやんわりと警告している。

 ただ、あまり厳しく規制すれば、エンタメ施設だけに逆効果にもなりかねない。迷惑系ユーチューバーらと違い、悪意はないだけにお客さまの意識に任せるしかない側面もあり、実に悩ましい問題である。

 小欄の読者の皆さんも、SNSによる情報拡散はPRの機会であると認識しているだろう。そのため、お客さまに積極的に映えスポットを紹介したり、当事者として従業員らが撮影、拡散したりしているケースもあるだろう。

 しかし、これまで述べてきたように撮影したい人と風景やパフォーマンスをじっくり見て思い出にとどめておきたい人とのかじ取りは難しい。学生の作文の着眼点の鋭さに感心するとともに、大きなトラブルが起きる前に基本的なルールを作り、周知徹底を図ることが欠かせない。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

 
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