11月半ばの成田空港、韓国・釜山行きの搭乗口前ロビーは日本人女性客であふれていた。20代から50代までと思しき彼女たちの会話が耳に入ってきた。「今年夏に行ったカフェ、かわいかったからまた行こうよ」「私はコスメの店が良かったな」など、韓国には何回も足を運んでいるような内容だ。旅前の高揚感もあってか、話が盛り上がっていた。釜山の街中でも、昨年訪れたソウルでも日本語が聞かれた。
インバウンドの話題が出るたびに、コロナ禍前の訪日中国人に代わって、韓国からの旅行者が激増していると伝えられている。2023年の国・地域別の訪日外国人は韓国がトップで695万人だった。今年もその傾向は続き、1千万の大台に乗るのではとの見方も出ている。2~3時間で往来できる距離的な近さ、円安などが追い風となっている。
一方、日本人の韓国訪問者数は、300万人程度と予想される。こうした日韓の訪問者数の格差について、今回の旅で出会った韓国の観光関係者は日本人がもっと来てほしいと願っていた。
また、日本人女性が活発に韓国を旅行しているが、男性が少ないのはなぜなのかと質問を受けた。円安・ウォン高、実質賃金の伸び悩みなどいくつかの要因が思いついたが、それ以上に男性が興味を引き、現地を訪れてみたくなるような観光コンテンツが少ないのが一因かもしれない。
2国間での往来者数は同レベルであることが望ましいと言われ、一方的な偏りは、「国のプライドを損なう」と口にする関係者もいる。しかし、成田空港で目にしたように、多数の日本の女性たちが韓国を訪れている。旅行というより、「韓国詣で」との言い方がふさわしく、筆者の知人の女性の中には年に何回もソウルや釜山に通っている人たちがいる。
格安航空(LCC)でお得な航空券を探し、ホテルも手ごろな価格の施設を選ぶ。その半面、自分の“推し”には惜しみなく金を使う。「円安、何のその」といった感がある。成田でもキャリーバッグに韓国男性アイドルのステッカーを貼っていたり、スマホの待ち受け画面がK―POPグループだったりしたのを目にした。
2003年から2004年にかけて日本で放送され、大きなブームを巻き起こした「冬のソナタ」以来の第2次韓流ブームだと言われ久しい。ドラマだけではなくK―POPが世界を席巻している。クール・コリアが大人気なのだ。
ご存じのように韓国は国土も人口も日本の半分で、国内市場が小さい。そのため、世界へ打って出る必要があった。その一環として、1990年代から現代文化振興策を打ち出し、政府がさまざまな知的コンテンツに関して支援を行っている。
それが奏功しているのだろう、昨年大みそかの紅白歌合戦に韓国の女性グループ「NewJeans」が出場したり、民放各局で放映されている韓流ドラマが人気を博したりと、クール・コリア戦略は日本で定着している。その証しといえるのが、韓国行き航空便の盛況ぶりなのだろう。
(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)
(観光経済新聞12月9日号掲載コラム)