【一寸先は旅 人 宿 街 33】観光分野の世相を漢字で表す 神崎公一


 年末恒例の2024年の漢字は「金」に決まった。小欄でも、旅先で感じた漢字1文字を三題話風に考えてみた。

 その1文字は「高」。昨年夏は猛暑で気温が異常に高かった。12月に入ってやっと冬らしくなったが、秋が短く四季ならぬ二季になったとさえ言われた。次は高齢化だ。先日、中国旅仲間の集まりがあった。6人中2人が後期高齢者。1人が前期高齢者。健康談義に花が咲き、20代の参加者は会話に加わりづらかったようだ。最後が物価高騰。これは読者も日々実感しているはずだ。

 8月に長野県白馬に行った。駅に降りると、これまでここでは経験したことのない暑さだった。タクシーに乗って、そのことを切り出したら、「エアコンを買わなくちゃと家族で話しているのですよ」と運転手が返答した。冬場は大型の灯油ストーブを使うが、夏は冷房要らずで過ごしてきたという。昼食のために、信州そばの店に行ったら大き目の扇風機がフル稼働していた。しかし、都内の飲食店に入ったようなヒンヤリ感はなかった。

 この旅では中央線、大糸線を走るJR特急「あずさ」に乗った。往復とも元気なシニアであふれていた。これは喜ばしいことだが、高齢化による後継者問題は深刻さを増している。
 ここ数年の取材旅行で目にするのは、幹線道路沿いのファミリーレストランのにぎわいとは裏腹に、街中心部の飲食店や土産物店などが店を閉めていることだ。マイカーを利用しない筆者は静岡県伊東温泉でランチ難民の1人として店探しに苦労した。このことは24年4月の当連載に「観光地とランチ難民…」として掲載した。

 なぜ、こうしたことが起きるのか。前述のタクシー運転手氏の説によれば、

「後継ぎがいないのですよ。老夫婦だけで切り盛りしている食堂もありますが、時間の問題で店じまいですかね」

 物価が「高」いに移ろう。知り合いの20代の女性に聞くと、アルバイトの時給は上がっているという。都内では1300~1400円も珍しくない。数年前なら、深夜・未明時間帯の賃金水準だ。ただ、時給は上がっても、コンビニで買うスイーツや飲み物も値上がりしているから、無駄遣いはしないようにしていると明かした。

 筆者が実感したのは新米の値段だ。スーパーの売り場を見たら、5キロが3千円台だった。1年前より千円近く高い。「令和の米騒動」とまで報じるメディアもあった。値上がり原因はコロナ禍で減った需要回復などさまざまだが、過去最高を更新するインバウンドが増えて、コメ消費が拡大したのも一因との分析もある。

 北海道ニセコのホテル関係者によると、アルバイト時給は3千円前後。インバウンドが多い地域なので、英語や中国語が話せれば5千円近いこともあるという。人件費や食材の高騰が宿泊費や飲食代の値上がりにつながるのはやむを得ない。観光客ばかりが対象ではない。東京や大阪への出張者からは、ビジネスホテルの値上がりも著しく、企業や役所の旅費規程では足がでてしまうとの嘆きも聞かれる。

 今年2025年の世相を表す漢字は何だろうか。随分と気の早い話だが、幸せを実感できる1文字であってほしい。

(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)


(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)

 
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