
京都府知事・西脇隆俊氏(左)と日本旅館協会関西支部連合会相談役・北原茂樹氏
大阪・関西万博(大阪・夢洲)の開幕が迫る。海外と国民の接点などを生んだ70年万博だが、25年万博は観光にどんなレガシーを残せるのか。関西各府県・旅館業界の取り組みや思いをリレー対談で紹介する。1回目は京都府。(聞き手は本社関西支局長・小林茉莉)
和やかに行われた対談(2月25日、京都府庁で)
府内全域でイベント開催 広域周遊を促進
――京都府の大阪・関西万博に向けた取り組みのコンセプトや内容は。
西脇 関西広域連合の「関西パビリオン」に万博会期中京都ブースを出展する。かなり早い段階から、府内産官学による「大阪・関西万博きょうと推進委員会」を作って、構想、企画を練ってきた。京都ブースの名称は「一座(いちざ)きょうと」。茶道の精神「一座建立」がテーマで、単なる展示だけではなく、実演や体験イベントを実施することで、来場者と出展者とが心を通わせて一体感を生み出す空間にしたい、そんな思いが込められている。
展示分野は、文化、食、産業、環境、いのち、観光の6分野。府内100超の企業や団体が出展する。各分野おおむね1週間ずつ展示内容を入れ替えて、来るたびに違った京都の魅力に触れてもらえる。例えば観光では、9月22日から10月13日まで、京都府・市で取り組んでいる周遊観光促進の取り組み「まるっと京都」をテーマに、府内を周遊するモデルコースなどを、府内の市町村が来場者に直接提案する。
京都ブースは、展示や体験を通じて、できる限りたくさんの方が「現地に行ってみよう」となる京都のゲートウェイにしたいと準備を進めている。
京都府知事・西脇隆俊氏
――府内でのイベントなど取り組みは。
西脇 推進委員会でアクションプランを策定して、全市町村で238のプランができた。そのうち広域で取り組むものや、多くの方と一緒に取り組む11のプランを「フラッグシップアクション」とした。例えば「京都まるごとお茶の博覧会」。京都はお茶の生産者をはじめ、茶器や菓子を作る方など、お茶文化に関係している人が非常にたくさんいる。そういう方全てに参加してもらいお茶文化を発信していこうと。南部では茶摘み体験などもできる。特に外国人は、製造過程に強く興味を持ち、臼で抹茶をひくのを見せると感動する。10月には北野天満宮で、豊臣秀吉が催した北野大茶湯を模した大茶会をやりたい。お茶の文化で日本の心を示そうということだ。
食文化では、「和食と世界の食サミット」を開催し、海外の有名なシェフに来日してもらい意見交換したり、実演を行ったりする。また、京都の文化や産業とかかわりの深い川の魅力も取り上げる。伏見港が整備され、また宇治川・淀川の舟運も淀川大堰閘門(おうぜきこうもん)ができて、十三から伏見まで船が通れるようになった。万博半年前イベントでも伏見港から大阪の枚方まで62年ぶりに船を走らせた。京都は川とともに生きている。古くは桂川の木材をいかだで流して平城京の造営にも使っていた。そういった歴史や文化と観光を一体で発信していく。また、万博と同じ会期で、「けいはんな万博2025」も開催し、住民参加でロボットの競技大会や自動運転の実演など先端技術や研究成果を、けいはんな学研都市の街の中で披露したい。
あとは「京都駅エリアまるごとゲートウェイ事業」。4月から京都駅に情報発信拠点と魅力発信ブースを設けて、万博関連の情報をここに集約し、常駐の専任スタッフを置いて、京都駅を訪れた方のニーズに応じた府内の観光先、イベントの提案や交通手段の案内、PRイベントなどを行う。
多くの方に府内各地を訪れていただき、府内全域の地域振興と活性化につなげたい。
――京都府内の旅館ホテルの今回の万博への取り組み状況はどうか。
北原 70年万博の時、私は大学生だったのだが、半年間ほぼ満館状態で、お客さまも「廊下のところでもいいから、布団さえ敷いてくれたらいい」と(笑い)。それこそ大変だった。今回はどういう状況になるのか分からないが、京都市以外のエリアでは、万博による予約集中や問い合わせも目立ったものはないと聞いている。一方市内の旅館では、万博期間は7、8月の閑散期もずっと予約が入っている状況。なので、のんびり構えているというのが正直なところだ。
今はインバウンド客が都市圏に集中しているので、地方部に分散していくことが重要だと考えている。特に京都府の場合は、「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」といったように、これだけいろんな文化、違った味がある。それを知っていただくことで分散、周遊につなげたい。
日本旅館協会関西支部連合会相談役・北原茂樹氏
新しさと古さが共存する旅館の価値を発信
――今回の万博の意義は。京都や京都の観光の未来にどのようなレガシーを残すとお考えか。
北原 70年万博とは違い、今は世の中が大変な状況だ。世界的にも厄介な問題ばかりの中で、日本特有の「和の心」を発信することに意味があるのではないか。世界では宗教に絡んでいろんな紛争が起こっているが、日本の場合、宗派同士での争いがかつてはあったものの、今はそこまで気にしていないまれな国だと思う。「和をもって尊しとなす」という精神は世界に発信できる。
西脇 世界では紛争が続いている。環境問題も根本は人間と環境の分断。「自国ファースト」の姿勢を強める国もあり、分断や孤立が進む中で、日本、特に京都は確かに異例の文化だ。宗教都市でありながら、同じテーブルにお寺さんと神主さんが座る(笑い)。万博は、多様でさまざまなことを受け入れる京都ならではの文化や価値観を世界に示す、いいきっかけになる。
また、万博に向けた府内全域での取り組みを通じて、今まで気付かなかった地域の魅力を再発見したり、「伝統」と「革新」が共存する京都らしさを融合させた、新たなビジネスチャンスにつなげたりすることが期待できる。
加えて万博や関連イベントでの経験や体験が子どもたちなど若い世代の印象に残るようにもしていきたい。万博会場を訪れてもらうのはもちろん、府内でのイベントにいろいろ参加してもらい、インバウンドの方や、地域の方との交流を深めてほしい。国際交流はまさに違いを認識する行為。分断やオーバーツーリズム問題が指摘される中、違いが分からなければやさしさも生まれない。
――宿泊施設は交流の舞台ともなりうる。
北原 知事のおっしゃる通り、いろんな国の人と出会うことは子どもたちにとって非常に大事だ。子供たちがホストになって、外国人とスポーツしたり、料理を出したりする場があってもいいかもしれない。併せて和食や伝統工芸の体験などを通して本物に触れるのもいいだろう。
オーバーツーリズム対策でも万博は重要だ。京都は元々町中にゴミがなくきれいなので、他国に比べればマナー問題も軽微だが、本来の京都の良さを守っていくためにも、この万博はマナーの問題などを国内外に問題提起する重要な機会であると考えている。
――京都府の宿泊施設の魅力は。
西脇 宿泊施設数が全国4位と多いだけでなく、国の登録有形文化財になっている歴史的な建造物や町屋作りの旅館などさまざまあって面白い。宿泊することで触れられる京都の歴史や伝統的な文化もある。それから京都の女将さんの気遣いやおもてなしも魅力だ。
また、京都は広く、海の京都に行けば豊富な海の幸があり、舟屋を生かした宿泊施設もある。森の京都、お茶の京都では、農業関係者や地域の関係者が一緒に取り組む農泊もある。それぞれ地域資源を生かした宿泊施設があるのも京都の特徴であり、魅力であるため、ぜひ府域にも周遊していただきたい。
北原 京都府市にはひと通りの施設がそろっている。国内外のブランドホテルはほぼ全部京都市内に入ってきた。そこに俵屋、柊家など古くて良い旅館もある。郊外に出れば山に囲まれたり海に面したりした温泉旅館もある。これほど多様な宿泊施設が全てそろっているのは京都だけだ。特に温泉地では畳にベッド、部屋付き露天風呂がある、シニア世代にもインバウンド客にも対応した、先端の旅館のおもてなしができるようになっているところも多い。古いものと新しいものが共存するのも京都の旅館の魅力だ。
西脇 京都は、日本の心根とか心情が都市部でも残っている数少ない地域であり、暮らしそのものが日本の文化。京都に宿泊すれば、打ち水とか門掃きとか、昔ながらの生活文化からも学んでもらえる。万博をきっかけに京都に来て、建築や食など全ての魅力に触れてもらうことで、日本の文化の奥深さを知ってもらいたい。
北原 京都府も世界的に知られるようになったが、1300年の歴史の深さなど京都の本当の良さは知ってもらっていないと感じている。万博を生かして京都府の良さを売り込んでいただきたいし、われわれも連携して取り組んでいきたい。
西脇 旅館ホテルにはぜひ万博期間中には情報発信拠点となってほしい。人によって興味がある分野は異なるので、宿泊先で見どころを相談する人は多い。特に、フラッグシップアクションなど、一押しのイベントについては、万博ブースや京都駅での情報発信はもちろんだが、旅館でも一緒に情報発信をしてもらえるとありがたい。
北原 各地域の旅館の若手リーダーを集めて、地元の伝統工芸やお祭り、食文化の紹介などもできる。ぜひ連携して発信していきたい。
京都府知事・西脇隆俊氏(左)と日本旅館協会関西支部連合会相談役・北原茂樹氏