【万博で創ろう観光レガシー】第2回 奈良県知事 山下真氏×日本旅館協会関西副会長 伊藤隆司氏・元会長増田友宏氏 伝統・革新・多様さを包摂する文化PR


鼎談後の和やかな雰囲気の3者(2月26日、奈良県庁で)

鼎談後の和やかな雰囲気の3者(2月26日、奈良県庁で)

 大阪・関西万博の開幕まで2週間。海外と国民の接点などを生んだ70年万博だが、今回の万博は観光にどんなレガシーを残せるのか。関西各府県・旅館業界の取り組みや思いをリレー対談で紹介する。2回目は奈良県。(聞き手は本社関西支局長・小林茉莉)

 ――奈良県の大阪・関西万博に向けた取り組みのコンセプトと内容は。

 山下 万博には約3千万人の方が来場すると言われているが、それだけの人が当県に隣接する大阪を訪れる機会は50年に1度レベルのことだ。これを最大限活用して、当県に多くの人に足を運んでいただき、魅力を知ってほしいと考えている。

 そのためにすでにさまざまな施策を打ってきた。エクスペディア、トリップアドバイザーと連携協定を結び、万博に合わせて当県のキャンペーンを展開する準備をしている。観光WEBサービス「ならいこ」も公開した。行きたい観光地や食べてみたい料理を一つ決め、生まれた年、性別、気になるキーワードなどを入力・選択すると、AIがその人の好みに合った旅のプランを自動で組み立ててくれるものだ。目的地への利用交通機関なども示してくれる。大阪観光局と連携して、両県の観光施設をお得に利用、拝観できるデジタルパス「大阪・奈良楽遊パス」も作った。ぜひこれらを活用して来県してほしい。

 ――万博会場内での取り組みは。

 山下 EXPOアリーナ内の広場「Matsuri」で、5月27~29日の3日間、当県に関するさまざまな催事を予定している。例えば、平安時代から一度も途切れずに続いている、県の無形重要文化財「春日若宮おん祭」はじめ、県内の無形民俗文化財の祭りなどを披露する。古式製法で作った「古代酒」などが味わえるトークイベントや食ブース、クラフトフェアブース、吉野杉を使った茶室でのお茶の振る舞いなどを通して、国内外の方に当県を知ってもらいたい。

 関西パビリオンでも、4月15~26日まで、39市町村全てが多目的エリアにPRブースを出したり、奈良県の観光や歴史文化についての展示を行ったりする。ならいこも紹介して、来訪を促す。

 このほか、当県出身の映画監督で、万博のテーマ事業プロデューサーである河瀬直美さんプロデュースのパビリオン内でも、9月12~25日まで各市町村のPRをしたり、河瀬監督監修により制作した市町村のPR動画を、万博会場などで放映する。

 ――県内でも関連イベントを行うのか。

 山下 クラフトフェアと県内企業のオープンファクトリーのPRを予定している。クラフトフェアは会場内でも行うのだが、伝統工芸品や工業製品、木製品、農産加工品などを一同に集めたイベントとして、県内各地で実施する予定だ。併せて県内農産物を使った食の提供、旬の農産物などのマルシェも行う。

 オープンファクトリーはモノづくりの現場を見せる体験型の取り組みで、実施企業をまとめたデジタルマップも公開した。県内には、靴下や茶せんなどを生産する中小の工場がたくさんあるので、実際に足を運んで奈良県のものづくりを知ってもらおうというものだ。

奈良県知事・山下真氏
奈良県知事・山下真氏

 ――旅館ホテルの予約状況、取り組みはどうか。

 伊藤 個人の予約は入っているが、万博関連かは分かりにくい。団体の予約も目立った動きは今のところない。逆に一部地域では、花見客など通常の需要が万博で他地域に取られたり、バス不足による利用減を心配する声が聞かれたりしている。

 増田 奈良公園周辺の大きな施設でも、本来旅行会社が団体向けに部屋を抑えるべき時期にその動きがなかったので、正直不安はある。

 伊藤 万博を見据えて、各宿がミャクミャクのぬいぐるみをフロントに置くなどムード作りを始めてはいるが、取り組みはまだまだこれからだ。われわれも万博について、情報をもっと取りに行かなければならない。

日本旅館協会関西支部連合会元会長・増田友宏氏
日本旅館協会関西支部連合会元会長・増田友宏氏

日本旅館協会関西支部連合会副会長・伊藤隆司氏
日本旅館協会関西支部連合会副会長・伊藤隆司氏

 ――令和の時代の万博の意義は。

 山下 時代が変わっても変わらない普遍的な価値はあるのではないか。インターネットを通じて海外事情や先端技術を知ることはできるが、よほど興味関心がないと調べることはない。万博では、未来に向けて各国が力を入れていこうとしている技術や文化などを一挙に知ることができ、興味関心があること以外についても啓発されることに意味がある。当県について普段に関心がない人が、万博で奈良の意外な面に触れることで、興味を持ったり行ってみたくなったりすると期待している。

 スペイン・マドリードの国連世界観光機関に行った際に、「奈良県が日本という国の始まりの地ということを外国の人は知らない」と言われたことが強く頭に残っている。このことを含め、海外でも非常に人気の高い日本酒や発酵食品の発祥の地であることも、短期間でより多くの人にPRできるのが万博と考えている。

 ――万博を契機に宿泊産業として取り組みたいこと、レガシーとしたいことはあるか。

 伊藤 コロナ禍の中で県の協力も受けながら、各宿が高付加価値化事業に取り組んだ。これにより、従来よりも短期間でリノベーションやバリアフリー化などに取り組むことができた。万博はこの高付加価値化事業の成果を見せるチャンスととらえている。コロナ禍以前よりも奈良の宿泊の魅力を感じてもらえる環境が整ってきたので、もてなしも環境もアクセスも含め「奈良に泊まって良かった」と感じていただき、今後の宿泊需要の拡大につなげたい。

 増田 奈良公園周辺だけでなく、中南和(県中南部地域)に誘客するチャンスでもある。来年には「飛鳥・藤原の宮都」が世界文化遺産に登録予定だ。また中南和は、特に歴史と深い自然が一体になっているのが魅力でもある。大台ヶ原も洞川も吉野も良い。僕らは小さい頃に大峯に登らされたものだが、ぜひ多くの人に登ってもらいその素晴らしさを体感してほしい。この機会に、特に訪日客にそれらを知ってもらうのは、今後の観光誘客において非常に重要なことだ。鹿と大仏しか知らない訪日客に向けて、SNSなどでもしっかり発信をする必要がある。

 県民の宿泊率も低いので、中南和には1度泊まってその良さに気付いてもらいたいし、その上で皆さんにもPRしてほしい。

 WEBはもちろんだが、リアルエージェントの発信力、団体旅行の企画力にも期待したい。

 ――奈良県に宿泊することの魅力は何か。

 山下 「静けさと暗やみ」。これは大阪や京都にないものだ。中南和に行けば、昔ながらの民家や自然、田園の中に宿泊施設があり、人の営みを感じられる。いわゆるゴールデンルートには「日本の田舎」はない。大阪・京都ではなく奈良に泊まってもらえれば、日本の始まりの歴史と、日本のカントリーサイド、そしてネイチャーランドスケープ、オリジンに触れられる、それは魅力だ。

 一方で、静けさと暗やみと両立する範囲で、ナイトタイムエコノミーの活性化も、宿泊客の増加には必要と考えている。県としても来年度、ナイトタイムエコノミーの創出に取り組む。奈良公園周辺の文化施設の夜間開館の拡大や、奈良の魅力的なバーの紹介などを組み合わせて発信したい。

 伊藤 せっかくこれだけ昼間に来てもらっているのだから、「夜にはこれがあるから泊まっていこうか」となるような、定番のナイトコンテンツもあれば良い。「なら瑠璃絵」や「なら燈花会」も良いが、期間限定。猿沢池などで噴水ショーや奈良ならではのプロジェクションマッピングなど、県などと考えていければ。

 ――万博に向けた連携への意気込みを。

 伊藤 万博全体の様子が分かってきたので、旅行会社などとも組んで何ができるか、具体的な取り組みを考えていきたい。特に会場とのアクセスの良さは発信したい。電車はもちろん、車でも会場まで1時間ちょっと。万博に合わせて奈良に泊まってもらう。未来社会の世界と合わせて、歴史的な部分、古代の日本を体験していただけたらいい。

 山下 万博の入場券を持っている人への、宿泊代金の割引などもぜひお願いしたい。

 伊藤 検討したい。

 増田 私たち観光業界はコロナ禍で3年間、本当に苦しい時期を過ごした。頑張れたのは、国や県に応援をいただいたのはもちろんだが、やはり「25年に関西で万博がある。それまで頑張れば大丈夫や」との声があったから。正直に言ってわれわれの万博への期待は、皆さんの想像を超えている(笑い)。

 万博は1回火が付けば必ず売れる魅力あるコンテンツだ。絶対忙しくなるし、利用しない手はない。県のイベントデーなどでも協力して、一緒に魅力を発信していきたい。

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