【中学校教育旅行レポート】桃山学院中学校高等学校 プラン作りは「究極の探究活動」 生徒が一から作り選ぶ修学旅行


民泊先でのなめこ狩り

 桃山学院中学校高等学校(大阪市、生田耕三校長)は、1884年(明治17年)、英国人宣教師らが創設した学校をルーツに持つ、歴史ある学校だ。今もキリスト教精神にのっとり、「自由と愛の精神」に基づいた学びの場を提供。生徒一人一人の多様な可能性を大切にしながら、学力と共に社会性を育む教育を行ってきた。中学校は、2008年、既存の高校に新たに中高一貫コースを設けたことにより開設。高校の自由で民主的な校風を受け継ぎ生徒会活動などが活発だ。「締め付けることを嫌う学校なので、生徒たちも自由でのびのびと個性豊かに育っている」と田中智晴中学校教頭は話す。

 同校の特色の一つは学校行事の多さだ。体育祭や文化祭などは生徒が主体となってじっくり準備を行った上で実施しているほか、遠足や登山、磯実習などの機会も豊富。さらに各学年ともサマースクールやキャリアキャンプなどの宿泊行事を年2回ずつ行っている。

 修学旅行もそのうちの一つ。昨年10月に実施した修学旅行には3年生3クラス120人が参加。4泊5日の日程で、北関東と東京、横浜を巡った。1日目は群馬県の富岡製糸場を見学した後、同県みなかみ町周辺で民泊。2日目は民泊先で農業体験や料理体験など実施。3日目は栃木県で那須ハイランドパークと日光江戸村に分かれて自由研修を行い、那須高原に宿泊。4日目は日光東照宮を訪れた後、東京に移動して国立科学博物館の見学や横浜でのクルージングディナーを体験。5日目は横浜・鎌倉エリアでグループ別自由研修を行うという日程。この旅程は、3年生全員による旅行プラン作成とプレゼン大会による投票で決めた。

 生徒による旅行プラン作りは、中学校開設時から始まった。「新しい中高一貫校として差別化を図る中で、学業面だけでなく学校行事を大切にすることで、社会性を育てられる学校を作ろう。その一環として生徒自身が決める修学旅行がいいのではないかと考え、取り組みが始まった」と田中教頭は振り返る。

 生徒よる修学旅行づくりの一連の流れは開始当初からほぼ変わっていない。中学2年生の1学期に、修学旅行の予算を提示。3、4人のグループに分かれて、日本国内での3泊4日の旅行プラン作りを開始する。旅行会社の社員に来校してもらい、飛行機を利用する場合に搭乗手続きに必要となる時間など、旅行プランづくりの基本的な知識や情報について説明を受けるほか、インターネットを使っての情報収集などを行い、行き先や体験内容、交通手段などを詳細まで作り込んでいく。例えば宿泊施設については、立地やアクセスだけでなく、団体受け入れの可否や団体料金、旅行実施予定時期の空き状況なども、実際に問い合わせを行う綿密さだ。「インターネットでは出てこない情報を問い合わせたり、自分だけでなくみんなも楽しめるか考えたり。修学旅行という皆が楽しみにしている行事だからこそ、自発的に考え、調べる。まさに『究極の探究活動』だ」と田中教頭。

 半年ほどかけてプランを作り上げた後は、プレゼンテーションの準備と練習を重ね、予選会でクラス代表を決定。2年生の学年末に学年での決勝プレゼンテーション大会を行い、生徒、教員、旅行会社社員による投票で旅行プランを決める。田中教頭は「沖縄や北海道といった人気の行き先が決まるという感じはなく、いかにして『自分たちのコースで行きたい』という熱意と面白さを見せるか、プレゼン力もポイントになっている」とみる。

 優勝した旅行プランに基づき旅行会社が日程などの調整を行い、教員が下見を行った上で最終的な旅程を固める。昨年の場合は、民泊先に予定していた栃木県の大田原が手配の都合でみなかみに変更になったほか、下見をした教員から「民泊の時間が少ないのでは」との提案を受けた生徒たちが民泊を2泊に変更したものの、おおむね生徒のプラン通りとなった。

 田中教頭によると、1年生の宿泊行事のころは、時間を守ることなど、集団行動のいろはを教員が指導することが多いというが、修学旅行では生徒たちも集団行動や班別行動の要点をしっかり理解しており、トラブルはほとんどない。「3年間のさまざまな行事の集大成として、教員も生徒たちと一緒に純粋に楽しませてもらっている」と田中教頭は笑う。

 生徒主体での修学旅行により、探究的な学びの実践や、自分の考えを形にして表現する力の向上などさまざまな教育効果が得られており、同校では今後も取り組みを継続する考え。「完成形」とも言えそうな同校の修学旅行について課題を尋ねると田中教頭は、生徒がイメージしやすかったりネット検索しやすかったりする行き先や体験メニューへの偏りを挙げた。実際、四国地方と中国地方は生徒のプランになりにくく、修学旅行先に選ばれたこともないという。田中教頭は「受け入れ地域には、『こんなに面白いところがあるよ』ともっと情報発信に力を入れてほしい」と語った。

 
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