【中学校教育旅行特集】全国修学旅行研究協会主催「第41回全国修学旅行研究大会討論」


これからの修学旅行を考える―コロナ禍を経て

<登壇者>
・前栃木県中学校長会会長 増山孝之氏
・京都市 金波樓代表取締役社長 井上義一氏
・全修協常務理事、関修委事務局長 岡田俊二氏

<進行>
・全修協名古屋事務局長、東海修委事務局長 関口大介氏

 全国修学旅行研究協会は7月23日、「第41回全国修学旅行研究大会」を東京都内で開催し、その中で「これからの修学旅行を考える―コロナ禍を経て」と題した討論を行った。コロナ禍によって修学旅行の意義が再度確認されたが、多くの課題も生じている。当たり前の修学旅行が当たり前ではなくなってきているのが現状だ。討論会では、修学旅行を実施する学校側、受け入れ側、さらにその調整役という3者の代表により、これからの修学旅行を来場者とともに考えた。

関口 コロナ禍による観光・旅行業界からの人材流出は、貸し切りバスの確保や宿泊、食事などの関係施設の対応、旅行会社の対応などに大きな影響を及ぼし、その影響は学校現場を直撃している。加えて、物価の高騰、働き方改革に伴う変化、観光客の極端な集中などの問題もある。こうした現状を踏まえ、私ども協会では修学旅行が学校単独では実施できない教育活動であることを踏まえ、学校も修学旅行実施に関わる施設等の現状に目を向け、学校として可能な工夫について検討することも必要ではないかと考え、この討論を企画した。今回の討論は公立中学校の修学旅行を念頭において進める。先頭を切って、まず増山先生から発言をいただきたい。

学校が感じている修学旅行に対しての懸念点

増山 学校が感じている懸念の中から3点の問題を提供する。一つ目は、旅行価格から見た修学旅行の在り方である。栃木県は、実は7万円台、高いところでは8万円を超える費用を1回の修学旅行に投入している。これが妥当な金額かどうか、栃木県内の中学校では大変悩んでいる。京都、奈良方面をほとんどの学校が選択しているという状況があり、栃木県内の中学校にとっては、社会状況によって物価上昇がこの後も続いていけば契約時と実施時の価格の大きな差が出てしまうと大変不安に思っている。

 二つ目だが、旅館、ホテル等の宿泊施設や、バスやタクシー等交通手段の確保が今後十分にできるのかという懸念がある。ここ3カ年ぐらいは旅行業者選定のプロポーザルをやると、5社ぐらい指名したうち、2社ぐらいが辞退をしている。以前は競争がしっかり行われていたわけだが、最近はそうならない。また参加した業者の提案内容を見ても京都市内の宿を提供できない。バスやタクシーの確保もギリギリの状態であり、本番までにバスが十分間に合うかどうか確証がないという提案をする業者もある。旅行業者自体も、それから担当者もコロナ以前と比べると提案力、実行力が少し弱くなったと学校としては感じている。

 3点目は、実は昨年度、東海地方の集中豪雨があり、宇都宮市内の複数の学校が新幹線車中泊という状況になった。この時、一番困ったのは、校長に的確な情報がJRや旅行業者から入ってこなかったこと。指示が出せず、後手後手になってしまうことがあった。後に関東修学旅行研究委員会を通して旅行業協会やJRには情報連携について強く申し入れをした。実は、今年も電車が三河安城で止まり、同じ校長が乗っていて、でも昨年と比べるとJRや旅行業者の情報が非常に早くて的確だったと言っていたので、この場をお借りして感謝を申し上げたい。

関口 今、栃木県の話だったが、関東地区全体の学校の状況について関修委の岡田事務局長いかがですか。

岡田 関修委の正式名称は関東地区公立中学校修学旅行委員会。北は茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、この関東5県の中学校全校の校長会組織だ。今現在で校数が1300校弱、3学年構成人員は18万5千人くらい。主な仕事はJRの連合体輸送。連合体輸送とか集約輸送とか、計画輸送とかいろいろな言い方があるが、そういったものの実施、運営、それからその1300校の状況を見た調査研究活動が大きな仕事だ。

 2年前の2022年度は、やっとコロナの呪縛が解けてほぼ修学旅行が従前の形の実施にこぎつけてきた記念すべき年。この年については、各先生方も「いやあ行けて良かった」とこの一言だった。本当そんな感じだった。そして昨年、23年度になると、元々の計画通り100%実施できた年度であった。そこでもやはり「行けてよかった」という状況が多かったわけだが、そこに少しずつ入ってきたのが「行ってみたのはいいが、やはり混んできた」という意見があった。それから暑さの状況、「暑いよね」。関西に行っている学校がほとんどなので、そういった言葉があった。先ほどお話があったが、6月の台風2号で車中泊を余儀なくされた学校があったけれども、そういったところでやはりJRとの情報共有がなかなかうまくいかなかったという反省も出たのは確かだ。

 そして24年度になって、修学旅行は春の部分がほぼ終わったが、貸し切りバス代を含めて旅費が高騰していて、これからどうなるのか不安だという先生方の意見が多かった。それから、やはり混んでいる。オーバーツーリズムと言われる部分で非常に日程が予定されたのが遅れ遅れになってもうどうしようもない。中には京都駅に着いたのは列車時刻発車2分前。階段を駆け上がってやっと乗った。とにかく帰りが読めないという状況がある。

 計画輸送では2年前に構想を作るから、今は26年度の計画申し込みの最中だ。なので、本年度5月、6月に実施した学校の先生方の印象が非常に物を言う。22年、23年はやって良かった、できて良かったという感じだったから、それほど方面的な変更の影響は出なかった。まだ申し込みの最終段階を今やっているところだが、そういう状況もあってか関西方面がほぼほぼという状況は変わらないが、一部、東北、北海道、北陸の方面へ行ってみようかなという学校が少し増えている。それからもう一つが秋への実施時期の移行の学校がこれもほんの数校だが、多少増えている。

オーバーツーリズム対策について

関口 お2人の中からも出ている訪問地が混むという問題。これも少し取り上げておきたい。関東から言えば京都の方が目的地として圧倒的で、昨年のデータで言うと、関東5県の83%の学校が京都で宿泊をしている。連泊すると27万人ぐらいになるという数字になる。京都在住の井上社長に地元の話、それと京都市のオーバーツーリズム対策についても少しお話しいただきたい。

井上 京都にたくさん修学旅行の生徒がお越しいただき、京都に住んでいて旅館を営業し、本当にありがたい話だとずっとやってきたが、最近、オーバーツーリズムというどちらかというとアンチ系の話がいっぱい出てきている。この夏は日本のお客さまはどこにいるのかというぐらいのレベルで、海外のお客さまが全世界からたくさんお越しいただいている。4~6月、9~12月と修学旅行が動いている時期にも海外のお客さまはどんどん京都に入っている。

 京都の宿泊事情としては、コロナ前までは京都市全体で3万室が今、6万室を超えようというホテルラッシュが始まっている。この中で修学旅行の生徒や学校に迷惑をかけないようオーバーツーリズムが簡単に解決できるのであれば素晴らしいことだが、そういう特効薬は本当にない。

 それで今、京都市と京都市観光協会では時期の分散化を狙っている。京都は春秋が一番いい季節なので、そこへどうしても集中していく。それを何とか冬と夏に分散してくれないかということで、いろいろな取り組みをしている。それと時間の分散化を今少しずつ考えている。朝に何か体験できるお寺に案内するとか、また夜型の観光、体験学習を含めて、日中の混んでいるのを何とか分散化させていきたい、と。それから乗り物が混んでいることが一番大きな課題になっているので、歩いて京都の街を見学してもらうことを京都市や京都市観光協会は言っている。それから、アウトドアなハイキングのようなコースも作っていきたい、という。

 それから、「京都ナビ」というコンテンツがある。京都ナビには京都の今10カ所程度の定点カメラを設置して、バスの状況や、その道の状況がどれぐらい混んでいるんだという、まさにジャストナウな情報をスマホやパソコンで見られる。徐々にそういう形で見える化して、皆さまにお知らせしていくということをやっている。

 修学旅行はほとんど手ぶらに近いのだが、手ぶら観光を推奨している。海外のお客さまがなるべく大きなバッゲージを持って市バスや地下鉄に乗ったりしないでほしいということで、バッゲージを預けるコインロッカーなどがかなりの箇所、京都駅の近くにはある。

 それから「京都観光特急バス」というのがある。これ京都で二つのルートで走っている。例えば、京都駅前から五条坂、祇園、岡崎神宮、平安神宮前、銀閣寺、それの復路で逆に京都駅までと、もう一つは京都駅から五条坂、清水寺直行のバス。他の停留所には一切止まらない、観光用のバスだ。

増山 井上社長の話を聞いて、なるほど嵐山に泊まれば、嵐山が混む前に嵐山を歩ける。清水の近くに泊まれば、清水が混む前にみんなで散策できる。そういうのを学校もやはり柔軟に考えた方がいいというのを本当に思ったところだ。非常に示唆のあるお話だ。

 ただ、時期の変更については、学校としてはなかなかハードルが高い。春やっているものを秋に持ってくると、では、秋の文化祭と合唱コンクール、体育祭をどうするんだという話になるし、地域の祭りもあるのでなかなか、その学校が毎年組んでいるカリキュラムを大きく時期を変更して学校行事を組むというのは、なかなか校長1人の判断ではできない。

受け入れ側の観点から―食物アレルギーの対応

関口 今、安全安心ということも出た。命に関わるということでもあり、アレルギーの対応というのは今すごく大きなウェイトを占めている。受け入れの立場ということで井上社長から食物アレルギー対応についてお話いただけますか。

井上 アレルギー対応は今、京都の施設全体ではないが、大きく分けて代替食と除去食と二つの方向性で動いている。その中で、比較的除去食が多くなってきた気がしている。アレルギーは今一番の問題であり、人が何人も取られているという状況。京都府、京都市と一緒に含めて「食物アレルギー事前調査票」というものを作った。これは京都府立大学の先生や、給食を用意する方や現場の先生方、オブザーバーの旅行会社、われわれ旅館施設や途中休憩や昼食などの観光系の皆さまと話し合って作ったのは、10年以上前。その時はまだ7品目除去だったが、今は28品目除去だ。でも、そのために栄養士を置いたりすることは今のこの世の中では不可能だ。

 それとアレルギー対応に関して、保護者、学校の先生、旅行会社、われわれ施設の4者が絡んで今動かしているが、四つの中で、施設に入ってくるアレルギーの情報が非常に遅い。旅行会社からわれわれに入ってくるのも本当にギリギリだ。旅行会社に電話で急かすと、学校からまだまだ入ってないとかということで、1週間ぐらい前、ほんと直近というのもある。それでは対応できないのが現実だ。28品目では収まらないことが出てくると思うが、これ以上求められても無理だ。修学旅行の大事な生徒を受け入れるのだから一生懸命やるが、なかなか難しい問題だ。

増山 急に災害等で延泊や車中泊になってしまったときの安全・安心の中にアレルギーというのがあって、災害とアレルギーというのはものすごく重大なことになる。昨年度、先ほどご紹介した宇都宮の中学校は約300人で修学旅行に行って、新幹線車中泊ということになった。車中泊になって次の日の朝までの間に何とか提供できたのは、おにぎり1個とお茶1本だ。なので、アレルギー対応とか栄養とかそういうものも全然ない。そういう問題ではない。とにかく空腹を満たさなければならないということ。それはどうしてかというと、結局、集中豪雨や地震などが起きるとその沿線に住んでいる方がまずスーパーやコンビニに買い占めに行くので、いくら旅行会社が支店や本店から人を派遣してもまず現地に来られない。新幹線は動いてないので在来線も場合によっては止まるので、去年の場合は、とにかく旅行業者は一生懸命やられたのが、結局途中までしか来られなくて現地には到着できない。なんとか先生方も含めて新幹線から許可が出て下ろしてもらって買い物に行ったときにはもう何も売ってないという状況だ。それでも、旅行業者があちこちの支店に声をかけて集まったのがおにぎり1個、飲み物1本、これが朝までの食事だ。なので、さらにそこに重度のアレルギーの子どもがいた場合には、とんでもないことになるから、場合によると食べるものを持って歩かなければいけないかもしれない。そこまでやらないとそういう重篤な子についての対応はできない。これは各学校で考えておかなければならない。

受け入れ側の観点から―食物アレルギーについて

関口 働き方改革で人手不足と言われるが、受け入れ側の方からで言うとこんな部分で人の動きが少し変わってくるということも少しこの機会にお話を伺いたい。

井上 われわれ京都の施設は本当に人手不足だ。このまま旅館をやっていく中でアレルギーや人手不足でサービスができないという状況がそんなに遠い話ではないのではないか。最大70軒ぐらいあった修学旅行に特化した旅館が今46軒しかない。3分の2ぐらいになっている。

 それで、学校の先生方にお願いだが、いまだに朝早く起床があって、6時40分だとか7時前の朝食を希望される学校がまだいっぱいある。昔だったら新幹線が「こだま」「ひかり」で動かれていたが、今、「のぞみ」になっていて所要時間がだいぶ変わってきた。京都に滞在する時間が長くなってきたのに、それこそ20年前のしおりがそのまま今年も来ている。ご指導等も多々あると思うが、6時半ぐらいの朝食を提供するには板前は4時ぐらいに出てくる。ほかの係も5時前に出てきたりしている。皆さまが出発して9時以降、今度はその日の夜に到着する学校の準備に入る。1日はそれで終わってしまう。朝食の時間を1回再考し、ご協力いただければ、修学旅行がもっと長く続いて、われわれも十分なサービスをしていける。

関口 昨年度、日本旅行業協会(JATA)から教育委員会などへ修学旅行に関する要望書が出された。要望書に四つの趣旨が書かれてあって、その一つが、各種費用の高騰を踏まえた旅行方面、内容、代金の見直しや繁忙期を避けた実施時期の検討をお願いします、という要望だった。これは教育委員会等へ行ったので、そこからまた学校関係へも流れていた。先ほど連合体の話もいろいろと出ていたが、連合体とずっと関わってきている岡田局長から説明をしてもらえれば。

岡田 JATAからの繁忙期を避けた実施の検討をお願いしますという文章を読み、私は、元々修学旅行は繁忙期にやっていないと思った。ゴールデンウイークや盆暮には行っていないし、新幹線の6月は元々閑散期であり、そういう時期も使ってやっているわけなので、それが繁忙期に当たるのかと単純な疑問もある。いま一度このJRの連合体というものを考えていただきたいというのは私の切なる願いだ。

 関修委は、1963年、昭和38年に発足した。今、東海道新幹線はもとより、北海道新幹線も東北新幹線、上越・北陸新幹線も全部、コースとして出来上がっている。委員会発足当時から国鉄、JRをはじめ関係省庁の皆さまと密接な関係を維持している。24年度の利用人数は10万7千人だ。

 では連合体を使ってのメリットは何かというと、まず1点目は、安心の確保。旅行実施の約1年半前の前年、もう多くのJRは確約をされる。よく先生方は、独自実施でやられる場合、旅行会社に申し込みしたら、もう列車は確約されていると思っている先生がたくさんいるが、違う。実施の1年前にならないと正式な発表は出ない。連合体は、もう1年半前に発表され、確約される。

 そして往復の特急料金50%割引となる特典が得られる。経済性の確保だ。万一、自然災害事故等で新幹線等々の運行に支障が出た場合でも、連合体輸送の運行列車は運行再開等最優先でやっていただける。これが安全の確保だ。計画輸送なので、結果的に旅行の分散化につながる。

 デメリットは、計画輸送だから、原則として旅行の出発日、実施日、そして乗る列車の時間は学校の自由とはならない、この1点に尽きる。いま一度、特に経済的な部分、そして安全の確保という極力連合体のメリットをよくお考えいただいて、生かしていただきたい。

 私どもの理事長が「修学旅行は学校だけではできない」とよく言っている。学校、保護者、生徒、そして旅行会社、受け入れてくれる各施設の方々の総力でもってできるのが修学旅行だ。いろいろな方面の方が関わっているので、いろいろな考え方がある。ただ関わっている方たちの最終的な思いは一つ。修学旅行の教育的な意義を達成すること、そして大切な生徒の貴重な体験活動を達成してあげる。今後もそのコアは変えてはいけない。

 変えないためには、変えなくてはいけないこともある。一つは、先ほどのアレルギーの問題。井上社長は少しおとなしく言ってくれたが、私は、あの品目の多さ、生徒の敏感な反応の強さ、そして保護者の皆さんのものすごく細かいものを考えると、もう受け入れ施設に投げて解決できる状況にはないと感じている。

最後に

関口 井上社長の方から一言。

井上 京都にとって修学旅行の生徒というのは非常に大切なお客さまだ。それで、事故のない安心・安全な修学旅行を続けていただくように、われわれ京都の施設も一生懸命努力はさせていただくけれども、続けていくには、学校のご協力もこれからは必要になってくるのではないか。

関口 増山先生。

増山 冒頭に話したように、今後、修学旅行などに関わる産業界も含めて、少子化というものが非常に大きな影を落とし てくる。でも、小学校も中学校も高校も修学旅行というのは、物との出会いとか人との出会いとか時の共有とか非常に大きな価値を含んでいる。子どもたちにとって大きなものだ。将来にわたっての思い出にもなる。なくてはならない行事だ。したがって、子どもたちにとって最適な学びの機会を作るために、これまでの習慣にとらわれずに柔軟な選択を行っていかなければいけないということを今日はしみじみと感じた。国や地方公共団体を含め、われわれ大人たちが子どもたちの成長のためにどのような環境を整えられるのか。これまで以上に知恵を絞っていかなければならないなというのを実感した。

関口 私たちの全修協は、修学旅行の三つの柱として「安全性の確保」「教育性の充実」「経済性の適正化」を掲げてきている。今日の問題は教育性の充実より離れて、条件整備のところが話題になっているのだが、結局そこを解決していかないとどうにもならない現実がある。この討論の中から課題解決の糸口が少しは見つかれば幸いだ。

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