【中学校教育旅行特集】特別対談 全国修学旅行研究協会 岩瀬理事長 × 日本修学旅行協会 竹内理事長


ウィズコロナ時代の修学旅行の在り方

 新型コロナウイルス感染症の拡大により2020年度の修学旅行は全国的にほぼ中止、または延期となっている。しかし、新型コロナはいったん収束するかに見えたものの勢いを取り戻し、延期を決めていた学校でも修学旅行が今後実施されるかどうか極めて不透明だ。感染拡大を予防するための「新しい生活様式」の実践が求められるなか、ウィズコロナ・アフターコロナ時代の修学旅行はどう在るべきか。日本修学旅行協会理事長の竹内秀一氏と全国修学旅行研究協会理事長の岩瀨正司氏に、語りあっていただいた。

修学旅行の復活に向けてきたんなく意見を交わした日修協の竹内氏(左)と全修協の岩瀨氏

修学旅行の灯は消さないで 実施のための工夫求められる

 ――(司会=編集部・板津昌義)日修協、全修協ともに修学旅行動向の把握に努めている。中学校における現在の修学旅行の実施状況はどうだろうか。

 竹内 都内の公立中学校では、いくつかの自治体の教育委員会が学校に対して「修学旅行の取り止め」を指導したところがある。学校単独で判断して取り止めにした学校もある。都内の公立中学校では学校数でおよそ4割の学校が取り止めにしている。6割が実施なのだが、その中身を見ると、今まで通りの修学旅行をする学校もあるが、形を変えて修学旅行に近い形で実施する学校も多いようだ。

 岩瀨 コロナ禍で1学期の修学旅行はほぼ全面的に取り止めとなり、今後は中止と変更に分かれた。コロナの状況は流動的で、9月以降どうなるのか全く予測できない。ただ学校も保護者も生徒も「実施したい」というのが基本的な認識だ。ところが東京では今、非常に感染が増えているので無理しなくてもいいという声も出始めている。だが私たちの協会は、文部科学省が基本的な考え方として出しているように中止ではなく、あくまでも延期の方向でさまざまな努力をしていきたい。

 ――学校行事の中でも特別な行事である修学旅行が行われていないのは異常事態だ。現状の問題点、課題はどこにあるのか。

 岩瀨 一番大きな問題は、コロナはいったい何なのかということ。本当に恐ろしいのか、それとも後にひどい風邪のようなものと判断されるのか、まだはっきり分かっていない。マスコミが恐怖をあおり過ぎだし、輪をかけて専門家と称する人たちがいろいろな意見を言う。正しく恐れるという大原則があるが、何を正しいと見るかという選択があり過ぎて困っている。現時点ででき得る万全な対策を探らなければいけない。

 竹内 私たちの協会も、何とか修学旅行を実施してほしいという考え方だ。生徒にとっては一生に1度のことだし、思い出の点から言っても、学びの点から言っても、そう簡単に中止にできる行事ではない。コロナの実態はなかなかつかみがたい。一般に言われているように若い人たちはかかっても症状が出ない。中学生は元気だから、感染していても症状が出にくい。そのままの形で移動した場合に、行った先で感染させてしまう恐れもあるわけだ。農山漁村での民泊の受け入れ家庭では高齢者が多いのだが、「今年は修学旅行の生徒に来てほしくない」という地域も出てきている。そういったところに懸念がある。

 ――改めて、修学旅行の意義についてお聞きしたい。

 岩瀨 日本の学校教育は、教室の中だけではなく、校外でもいろいろな授業を行っているのが特徴だが、その中でも修学旅行は突出した大きな行事だ。明治から始まって100年以上の歴史と伝統があり、極めて日本的な教育活動の典型だ。だからこそ何とか継続させたい。私たちの協会では「学びの集大成」という言葉を使っているが、学校の教室の中だけではない、さまざまな学びを修学旅行の中で開花させてほしい。それが今の「主体的、対話的で深い学び」につながる。もう1点は、修学旅行は学校だけではできない。学校以外に旅行会社とか宿泊施設、観光・飲食・土産等関連施設、ガイドなどいろいろな方々の総合力で出来上がっているので、そういう意味でも大事な行事だ。

 竹内 岩瀨理事長がおっしゃったこととほとんど同じだが、加えて言うならば、現地に行って教室で学んだことだけではなくて、そこで実際に見るということ、あるいはそこで体験するということ、それを通して学ぶチャンスなんだ。そういう大きなチャンスを逃してはならない。それともう一つは現地の方々と交流をすること。例えば、生徒にとって民泊で接する方々は、物の捉え方や見方、考え方が自分たちと全く違ったところがある。自分の持っている今までの価値観が揺さぶられるわけだ。そうするともう1回自分を捉え直す。それが成長につながっていく。そういう機会だ。大きな学びがある。そういう点からも修学旅行は不可欠だ。

 ――コロナを具体的にどう乗り越えていけばいいのか。まずは、学校の対応についておうかがいしたい。

 竹内 学校としては「修学旅行を実施したい」というのが大前提だ。本当は事前に生徒と引率教師の全員がPCR検査を受けて、陰性が出たうえで修学旅行をするのが一番いい形だ。学校も、生徒を送り出す保護者も、受け入れ側も安心して修学旅行を行える。だが、現状ではそれは無理だ。だとするならば、今学校でやっている手洗いを徹底する、マスクをする、できるだけ大きな声で騒がないといった指導を一層強化するしかない。もう一つは、中学校は多いのだが、今までのように現地に行って1部屋に10人以上が寝泊まりをするとか大広間で皆が集まってレクリエーションをやるとか、そういった密の状態をできるだけ作っていかないようにすることも大事だ。それから、学年全体で同じ場所に行くと何百人という生徒数になる。1クラス、あるいは2クラスなどある程度分散した形で一つの場所に行ってテーマ別の学習をする方法もある。ウィズコロナ時代に合わせ、従来の形にとらわれないでできるだけ密の状態を避ける形を考えたらどうか。

 岩瀨 コロナに限らないが、ゼロリスクというのは世の中にあり得ないのに、学校は何とかゼロリスクに近づけるような努力をしなければいけない。それで学校が非常に困惑しているのではないか。そういう意味でコロナ対応は非常に難しい。しかし、竹内理事長がおっしゃったようないろいろなコロナ対策をすることで、修学旅行を実施するという基本的な姿勢を崩してはいけない。それからもう1点は、こういう状況なので今までのような修学旅行はもう考えない。学校も生徒も保護者もみんなが大胆な発想で、今までの修学旅行にとらわれない新しい修学旅行を創造するいいチャンスなのかもしれない。もう1点、これは私自身も校長を経験したから言うのだが、こういう時こそ校長の腕の見せ所だ。これを私は1番言いたい。「厄介な修学旅行がなくなって良かった」と安心する校長ではなく、何とかやる方法を探す校長になってほしいと強く願っている。

 ――一方、観光業界ではどういう対応が必要なのか。

 岩瀨 コロナについてはいろいろな団体がさまざまな対策を出しているので、それを徹底して行うしかない。もう1点は、修学旅行誘致その他でそれぞれの事業者は競争してきたが、こういう大混乱の時には「修学旅行の灯を消さない」という方向で一致団結してほしい。何か良いアイデアがあれば、自分たちだけで独占するのではなく、みんなで共有する姿勢を持つ。2点目として、学校では現地で発症した場合にどう対応すればいいのかを心配している。関係各方面の方々は、学校が安心する具体的な対策をとって学校にそれを伝えてほしい。3点目は、将来を見据え、修学旅行に先行投資をしてもいいのではないか。修学旅行が中止になった学校や生徒たちに旅館が3割引きになる10年有効のクーポンを出すなど思い切った救援策をやって、5年後、10年後の夢を与えてくれるとありがたい。

 竹内 旅行、バスなど各業界でかなりしっかりしたコロナ対応ガイドラインが提示されているからそのガイドラインに従ってやるべきことをきっちりやるということが第1だ。24時間体制の相談窓口を作ったり、あるいは医療体制をしっかりと整備したり、そういう具体的な方策を共通して持って、それを学校に伝えると同時にもう一つ保護者にもしっかりと伝える。私たちの協会にも保護者からの反対の声として、「学校が修学旅行をやると言っているのだが、何でやるんだ」とか「うちはやりたくないので何とかしてくれ」といった電話がかかってくる。だからやはり学校としてはやりたいのだが、保護者の反対が強いからできないというような部分もあるかと思う。その保護者の不安を取り除いてあげるためには具体的な形で各観光事業者がとっているさまざまな方策を知らせること、アピールすることがまず大事だ。

関係者が共通理解で連携を 保護者の理解も重要なカギ

 ――まとめとして各協会として今、一番訴えたいことをお聞きしたい。

 岩瀨 全修協は、6月12日付で「修学旅行の灯は消さないで」と緊急アピールを出している。これが私たちの基本姿勢だ。日修協さんも同じだと思う。何とか実施する方向をみんなで探っていこう。学校もそうだし、修学旅行関係の旅行会社や現地の宿泊、飲食、見学、土産などのいろいろ方々が共通理解をして、横の連携をきちっと持ってほしい。そういう共有化、共通理解、共通実践の姿勢でやってほしい。

 コロナがうまく収束して昔に戻れば昔通りの修学旅行ができるが、そうではない時代にもしなるのであれば、新しい修学旅行の形を模索しなければならない。東京都教育委員会は都立学校宛てに今年度12月までの宿泊行事は一切中止という通知を出したが、高校は3学期でも、3年生になってからでも実施できるのでそれでもいいが、中学校では3学期は難しい。ましてや年度をまたいだら絶対できない。そういう現実を踏まえて今の3年生が卒業するまでにできることは何かを考えてあげなければいけない。

 今は無理であれば、先行投資で何らかの形で生徒たちに夢を与える方向を考えてほしい。今年、ある学校が京都に行って、体験学習をやるはずだったが、コロナで行けない。そこで、京都の方々がその学校まで京都の体験学習を持っていって行う。そういう出前授業的なイベントを作ってもいい。とにかくいろいろな工夫をして生徒たちに満足のいく中学生活を送らせたい。今までと違った形でも構わないから修学旅行だけは何とかやってほしいと強く思う。「運動会も文化祭も合唱コンクールもなくなったこの3年生から、修学旅行をとったら何が残るのか」という現場の校長先生の言葉の重みをかみしめたい。

 竹内 学校としては修学旅行をやりたいという方向でだいたい動いている。ではどうやったらできるのか考えて、今までとは違った形でもいいからやる。その工夫が求められている。例えば、今まで行っていた京都では生徒がどういう体験をして何を学んできたのか、それは近県ではできないのか、そういうところから考えていく必要がある。学校には今までにとらわれない形の修学旅行をさまざま工夫して何とかやってほしい。

 旅行業界に対して言いたいのは、学校側はやりたいということだから、どうやったらできるのかを学校と一緒になって考えてほしい。もう一つは、修学旅行は保護者が理解してくれなければできないので、学校に対して保護者の理解が得られるようバックアップしてほしい。中心となる学校と業界、保護者が一体となって修学旅行の実施に向けて取り組める手立てを考えていかなくてはいけない。岩瀨理事長から先ほど話があったように、今まで行った地域から誰かを呼んできて学校で伝統工芸を作る体験をやらせるというのも一つの手だし、そこに保護者を呼んできてもいいと思う。場合によっては修学旅行という形でなくてもそれに近いような効果が得られるような学びのチャンスを作るため、観光業界も手を貸してほしい。修学旅行はコロナが収束すれば必ず復活する。

▷中学校教育旅行特集(2020年9月5日号)

 

 
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