――全旅連の「次世代人材育成委員会」で委員長を務めている。
「2年間の任期で、約1年半が過ぎたところ。初年度は次世代の人材について、委員の中でさまざまな議論をしたり、講師を招いて話を聞いたりした。今は人手不足の解消に向けて外国人材を受け入れるための旅館・ホテル向けの手引書を作っているところだ。同様の手引書を2020年度も作っているが、今の法律に合わせて内容をブラッシュアップする」
「技人国(技術・人文知識・国際業務)、特定技能、技能実習などさまざまな在留資格がある。自身の宿にはどの人材が合うのか、また費用はどのぐらいかかるのかなど、特にまだ一度も外国人材を採用したことがない人に向けて詳しく解説する」
「『外国人材を雇いたいが、どこに相談したらいいのか分からない』『多くのダイレクトメールが来るが、何が信用できるか分からない』。そんな悩みを持つ経営者が、特に地方の小さい旅館で多い。外国人材を受け入れるのが怖いという経営者もいる。ほかの従業員とうまくやっていけるのか、風習の違いであつれきが生じないか、住居をしっかり確保できるかなど、雇ったことがない人は心配だ。そこを少しでも払拭しようというのがこの手引書だ」
「もうすぐラフ原稿ができる。次の委員会で内容を精査する予定だ。今年度中に完成させる」
――自身が経営するフォレストグループ(本社=神奈川県湯河原町)の事例をお聞きしたい。自社の現在の人手不足感はどうか。
「おかげさまで深刻なほどではないが、板場では感じている。和食の調理人が不足している」
――どう対応しているか。
「調理人に関しては、求人を出して応募を待つしかない状況だ」
「和食を志す人自体が減っているのではないか。調理師学校の学生100人のうち、多くが洋食やパティシエを専攻し、和食を選ぶ人が10人もいないという。和食はユネスコの無形文化遺産にも登録されているわけだから、人材育成に国から何らかの補助があってもいいのではないか」
――新卒の採用は。
「職安などを利用して毎年募集している。最近は地元だけでなく地方の高校からも人が来て、その人はもう3年ぐらい、サービス係として一生懸命働いている」
――若い社員の定着率はどうか。
「今はそんなに悪くない。以前は10人雇うと3年後に1~2人しか残らなかったが、今は5人のうち4人は残る」
――定着率を高めるための取り組みを行っているのか。
「運転免許など、さまざまな資格を取ろうという社員への補助がある。会社が費用の半額を負担する。自動車の教習所に通うと30万円ぐらいかかるが、全額を会社が立て替え、半分の15万円を毎月分割で返済してもらう仕組みだ」
――外国人材の採用状況は。
「グループの約20施設で50人ほどを採用している。2018年にベトナムから大学生のインターンシップを受け入れたのがスタート。インターンシップは今はおらず、技人国と特定技能1号の人材を雇っている。国籍はベトナムとネパールが多い」
――どんな仕事を。
「フロントやサービス係が多い。技人国で入ってくる人は日本語がペラペラだし、パソコンも日本語で打てるから、言葉について全く不自由はない。グループ施設のグリーンパル湯河原はフロント係が3人いるが、外国人が2人、日本人が1人と、外国人の方が多い。近い将来、現場のスタッフを全員、外国人にしたいとも考えている」
――そこまで極端でいいと。
「お客さまからの評価が高い。言葉遣いや態度など、外国人従業員がアンケートで悪く書かれることはまずない。ひいきめに見てくれるところもあるかもしれないが、それ以上にみんな優秀だ」
「今、考えているのは、特定技能の人材をサポートする登録支援機関を自社でつくること。特定技能の人材を受け入れている施設は登録支援機関に支援料を毎月払う必要があるが、自社でつくれば費用を抑えられる。ほかの施設の人材支援を行うこともできる」
――外国人材への待遇について。
「日本人と平等。能力に応じて報酬などで差を付けることはある。来年4月から、グループ施設の副支配人のうち1~2人を外国人材にしようと考えている。わが社に勤めて3年ぐらいだが、本当に優秀だ。しっかりと仕事をすれば必ず評価をされると、彼らのコミュニティの中でも伝わるのではないか。外国人材の横のネットワークは強いものがある。評判の良い会社は口コミでどんどん伝わり、それにより新たな人材も入ってくる」
――人手不足への対応に、機械化やDX化も効果的だ。
「グループの旅館では、客室や食事どころにタブレットを置いて、お客さまが料理や飲み物を注文できるようにしている。フロントではチェックアウトの機械化を考えている」
【聞き手・森田淳】