【体験型観光が日本を変える 138】留学生の被災地体験 体験教育企画社長 藤澤安良


 ラグビーワールドカップ(W杯)が開催され、世界ランキング2位のアイルランドに勝つという、日本の活躍もあり、お茶の間も試合開催地も盛り上がりを見せている。ドーハで開催されている世界陸上でも、最も過酷な50キロ競歩で鈴木選手が金メダルを獲得するなどの活躍でそちらも注目度が上がっている。

 勝敗とは別に、恨みつらみのないノーサイドの精神が醸成され、良からぬ政治の道具や駆け引きに使われてはならない。それらを乗り越えて世界が仲良くなる機会になるのがスポーツの良さである。東京オリンピック・パラリンピックによい影響を与えてくれたと思う。

 高原の紅葉が始まりかけた東北の震災被災地、岩手県普代村・田野畑村にて首都圏の9カ国からなる留学生ら22人を迎え入れ、震災学習、漁業体験、ホームステイでの家業・調理などの田舎暮らし体験を2泊3日で行った。

 被災現場を訪ねる震災学習プログラムは3時間に及んだが、当時の様子を語るガイドさんに対し、どのようにして命を守ったのか、避難所生活や政府や自治体の対応など質問を浴びせかけていた。折しも、滞在当日に避難訓練が行われ、受け入れ家庭と共に高台への避難を体験した学生もいた。このテーマでの関心の高さ、学びの姿勢は日本人以上である。

 早朝4時からの漁業体験後の朝食は、取れたての新鮮な魚介類を使った漁師料理で、誰もがおいしいと言って舌鼓を打った。漁食振興は現場体験に勝るものなし。ホームステイ先では、家業を手伝ったり、夕食や朝食作りをして、自分でも作れるようになることを目標にしており、魚のさばき方、みそ汁や鍋料理の作り方などを学んだ。

 滞在中の7食は全てが地元食材による郷土料理や田舎料理であったが、都市に住む若者にとっては、メニューはもちろん鮮度や食感など全てが初めてであり、その全てがおいしいという。汁のおかわりを3杯もした女性も数人いた。地元のおばちゃんにレシピを教えてほしいと言う人もいた。

 つまりは、地産地消と田舎料理こそが感動を呼ぶ食育であり、世界に通用する食文化であり観光資源である。ホームステイでは海や畑あるいは野山などの食材調達から始まり、さらに食育を深めることになる。また、衣食住を共にし、日本の田舎の生活を経験し、生活や文化の違いなどコミュニケーション材料は尽きない。

 留学生は一様に生涯忘れない素晴らしい体験ができたと、何人かは涙を流しながら語った。受け入れた家庭は、外国人でもあり言葉の壁が心配であったが、うまく話ができた。みんな素直ないい子ばかりで、お手伝いも積極的に負ってくれた。ぜひまた来てほしいし、受け入れをしたいとのことであった。

 若者や外国人と交流する機会がほとんどない国際空港から遠い地域では、国際感覚を醸成する好機となる。若者は旅に出て、人と交流してたくましく大きくなる。地域は、旅人が滞在し交流して経済に結び付けてこそ持続可能な未来につながる。体験交流の真髄である。

 
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