【体験型観光が日本を変える 59】心の貧困から脱却 藤澤安良


 成人式が全国各地で開催された。相変わらず自己主張や破目外しの行動があったと報道番組が伝えていた。成人だからこその自覚はどうしたのだろうか。選挙権も18歳以上になり、成人年齢も引き下げようとする議論がある中で、人としての自覚が足りない。

 横浜市や八王子市に店舗を置き、晴れ着のレンタルや着付けを行う業者が成人式当日の8日に連絡がつかなくなり、新成人が晴れ着を着られなくなった騒動があった。被害届は380件以上にも及ぶという。購入済みや着付けのために預けていた着物が、ネットで販売されているのではとの疑いまで出てきている。今後は卒業式の衣装にまで及ぶと懸念されている。

 金銭の問題は言うに及ばず、一生に一度の晴れの日を台無しにした、あまりにも無責任な会社の対応に被害者の怒りは収まるはずがない。旅行産業でも似たような話があった。投資話でも、振り込め詐欺の類でも、人をだまして利益を得ようとするやからが後を絶たないのは情けない。

 平昌冬季オリンピックまで1カ月を切った10日に、朝鮮半島の南北会議が開催され、北朝鮮が参加を表明した。参加人数においても、平和の祭典という意味でも、安全面でも歓迎すべきことである。オリンピックの参加資格をめぐって、公明正大との信頼が厚い日本でドーピングに関わる問題が発覚した。故意にライバルを蹴落とそうとした選手が出た。あるまじき所業であった。フェアであるべきスポーツの精神に背く残念な出来事である。いろいろな事象の多くは、自己中心的で他人や社会をおもんぱかる心が足りない「心の貧困」が広がっていると思わずにはいられない。

 経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中で、日本は貧困率が4位、さらには子どもの貧困率も13・8%と7人に1人であり、経済的な貧困も、格差も拡大しているのではと思われる。さらには、過疎少子高齢化の波に歯止めがきかない地方と、人口も若者も経済も一極集中の都市圏との格差が広がる一方に見えてならない。都市のお金をふるさと納税よりも旅行消費で移動すべきである。

 通り過ぎるだけの風景観光や、ドライブばかりでは、双方が得られるものは多くない。体験交流型の滞在型観光は、経済効果のみならず、物見遊山では得られない多くの感動を与えてくれる。心の貧困から脱却し、解き放たなくてはならない。体験から得られるそれぞれの知識、技量にとどまらず、人と人とのコミュニケーションや交流は、人の心を高め、豊かにする。

 新年早々に晴れないニュースが続いたが、今年こそは、日本の地方が主役で輝く年にしなければならない。地域の未来を切り開く鍵は、農林水産業をはじめとする地域産業、知恵や技を持つ高齢者が活躍する体験交流型の観光しかない。体験交流を通じて地域の発展に貢献することは、故郷や田舎を思う心、祖父母や親への思慕敬愛の念を再確認することになる。日本人になくてはならないアイデンティティーである。

 
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