【体験型観光が日本を変える 77】人間教育に体験を 藤澤安良


 30~50年前の電車の中は、職場の同僚や上司、学生、友人やカップルも会話に花が咲いていた。私もそうしていた。そこで生き方、考え方、社会性、モチベーションなど得たものは数知れない。数日前、昼過ぎの都心の電車の1車両の中には私以外に39人の乗客がいたが、そのすべてがスマホ(スマートフォン)を操作していた。

 スマホの画面から何を得られて、何がなくなるのか、少なくとも時間と金銭の消費にはつながっている。そして、メールのやり取りはあるにしても、直接のコミュニケーションは全くなく、ある意味静かで、少なくとも、人間関係が構築されている様子はうかがえない。昔を知る私には異様な空間である。

 昨今、異様なことが起こり続けている。新幹線の車中で極めて残忍な手口で乗客が殺害された。むしゃくしゃしていて誰でもよかったと供述しているなど無差別殺人事件とも言える。人の命の尊さをみじんも感じていない言動が今の世相であってはならない。スポーツに関する問題が多発し、アメフトのラフプレイ以外にも、セクハラ、パワハラ、金銭問題、暴言、マナー違反、隠蔽(いんぺい)などに加えて、監督、コーチの保身や利権も見え隠れし、マスコミ報道が連日続いている。オリンピックを2年後に控えて、フェアプレイやスポーツマンシップがモットーの世界に何が起こっているのか、心配になってしまう。

 また、親が食事を与えなかったり、暴力を振るったりし、子どもが虐待死した。懸命に生きようとした女児のとても痛ましい事件が報道された。また、他人に殺されてしまった女児の事件も後を絶たない。いじめで自殺した生徒も相次いでいる。そんな時でも相変わらず、いじめはなかったことにしたい大人の責任逃れが見苦しい。監督、コーチ、教師、親、誰もが責任を取らない日本の構図は今の政治の世界とも重なる。

 あおり運転で死者が出ても、同じ行為が起こる学習力のなさ。大富豪の覚せい剤による突然死の報道も続いている。あまりにも自己中心で悪い人間が多すぎないか。親や教師による人間教育も不足している。社会に出ても学ぶべき上司も少ない。

 しかし、直接利害のない他人の意見は聞きやすい。日本中に生き方を学べる人や体験は山ほどある。児童生徒も、組織や職場での社会人も、人に学ぶ体験活動が必要である。そんなもの必要はないと思う人こそ、自己過信で問題意識の欠如に陥りがちである。日本の明るい未来のためにも、子ども農山漁村交流プロジェクトを全国的に復活すべきタイミングである。

 修学旅行に日程を追加して体験活動を積極的に導入することも必要になる。修学旅行とは別の時間を確保しての体験活動も私立の学校で増加している。社会人になってからの人間教育は自己責任と言っていられない。短期間での離職者が相次ぐ職場も組織も他人事では済まされない。社会人教育も机上学問では得られない体験教育を取り入れなければならない。

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒