新型コロナウイルスの緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が都市圏を中心に続いており、一部緩和されたとはいえ、接客サービスを伴う経済は回復できていない。帝国データバンクによると2020年度の宿泊業者の倒産件数(負債1千万円以上)は対前年度66.7%増の125件で増加率は過去最高となった。
この流れは宿泊事業にとどまらず、ドライブインや観光施設にも及んでいる。当然ながら、それらの事業者に納入している取引業者も営業機会を喪失したことになる。
一方で、ここにきてワクチン接種は急ピッチで行われている。前週に述べた低年齢への接種の検討について、5月31日の厚生労働省の専門分科会で、現行の16歳以上に加えて12~15歳へも、海外での臨床試験の結果によりファイザー製のワクチン接種が国費で可能となった。
基本的には64歳以下の一般接種に組み込まれ、その運用は市町村の判断にゆだねられることになる。つまりは、市町村立の中学校なら、行政判断により今後は修学旅行前の接種が可能となる。
神戸市は市立の中高で集団接種を検討している。そうした動きに対応して、受け入れ側も宿泊関係者、バスなどの運輸関係者、コーディネーター、民泊受け入れ家庭などの接種が求められることになる。
高齢者が多い地方の民泊家庭は受け入れ時には接種が完了する可能性が高い。しかし、観光業にかかわる人は若い年代も多い。接客業を優先しながら、受け入れ側も客側もワクチン接種済みで動ける体制づくりを急ぐべきである。
オリンピック開催が迫る中、中止すべきとの世論も少なくないが、開催の方向で動いていっている。5月末には豪州女子ソフトボールチームが全員ワクチン接種済みで来日し、空港で抗原検査をし、陰性で群馬県に向かった。毎日、PCR検査をするという。
路上飲みで夜遅くまで徘徊(はいかい)する人たちが後を絶たない東京の市中よりは安全である。日本のオリンピック選手役員にも接種が始まった。観戦者もワクチンや検査を条件とする案が浮上している。
経済面でもオリンピックを開催するぐらいなら、観光の書き入れ時の夏休みや秋の行楽シーズンを2年連続で動けない、帰省、墓参り、旅行ができないようなことにしてはならない。接客経済を動かすための政策を打たねばならない。
Go Toトラベルの復活より先に、ワクチンと検査の財源確保の方が合理性がある。積み立て方式である修学旅行を割引するより、ワクチン接種と検査で予定通りに旅行できるような体制整備こそが求められている。
オリンピックを、安心安全を担保しながらどう開催するのか、具体的なシナリオを分かりやすく解説すべきである。しかし、安心安全という言葉だけで、具体的な対応策が語られない中では多くの国民が安心も納得もしないであろう。
全てを話せば国民は耳を傾ける。合理的、科学的な正論に基づくならオリンピックで日本が一つになれる。そのシステムの運用が観光経済の復活につながってゆく。