議論が深まらず、多くの国民の不安が拭い去られないまま、いわゆる「共謀罪法」が成立した。
住宅宿泊事業法(民泊新法)も成立した。首都圏や関西圏など訪日外国人が集中する観光ルート上の宿泊施設不足や宿泊代金の高騰、家主不在型民泊の需要拡大、民泊でのゴミ処理や騒音など近隣への影響など、その問題は多岐にわたっている。
新法で制限された年間提供数180日のチェックはしっかりできるのか、また、民泊専用マンションが抜け穴にならないかなど課題もある。今後の、自治体の運用での適切な対応が期待される。
一方で、家主居住型ホームステイ民泊は、交流型、コミュニケーション型であり、人間関係構築力の向上への教育効果も高いことから、学校教育でのニーズは高く、さらには、国際交流でのホームステイも拡大し続けており、増え続けるインバウンドの地方誘致の起爆剤になることを期待している。
農山漁村でのそうした事業を推進する農水省の農泊推進対策交付金は、北海道から沖縄まで全国160箇所が選定されていよいよその事業がスタートする。地域にはありがたい交付金は、事業消化のためではなく、実際の誘客に結びつき、地域への精神的な効果と経済的な効果が生まれ、持続可能な地域の活性化につながらなければならい。
間違ってはならない重要な基本理念は、旅館・ホテルなどの宿泊施設の代わりにするのでもなく、サービスや豪華施設、料理の品数などの物欲を満たすのでもなく、「心のおもてなし」である。自然や田舎らしさに価値があり、ありのままの暮らしや営みの中にこそ学びがある。さらには、その地域ならではの体験活動や地産地消による郷土料理が旅の魅力となる。忘れてはいけないのが、主たる目的である交流、コミュニケーションである。
22年前から体験型観光の推進をし、20年前から農山漁村生活体験(民泊)を推進して、千回を超える講演や研修を実施し、全国約5千軒の受け入れに関わってきた経験から、この事業の推進には、その基本理念を官民一体となって理解する意識醸成の機会が不可欠であると考える。
そして、その地域の特徴や魅力ある体験プログラムの資源発掘と商品化が誘客の鍵となる。その情報を国内外のマーケットに発信するため、ウェブサイトやパンフレットの製作、あるいは営業活動などプロモーションをうまくやらないと、受け入れ態勢を整備しても人が来ない。その商品の品質管理や予約販売など、事業の推進を担うコーディネート組織が必要となる。
さらには、農林漁家の民泊の担い手、体験プログラムのインストラクター、コーディネート組織などの人材育成こそが成功の命運を握る重要な事業である。
日本の食が欧米化や既製品化する中で、食育への期待も高いことから、地元での郷土料理の検証や、物産販売などへの波及効果も目指すべきである。各地の成功を期待したい。