【全旅連全国大会特集】多田計介 全旅連会長に聞く


ポストコロナ時代を見据えた今後の施策

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は今月25日、福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズで第99回全国大会を開く。例年、千人規模の旅館・ホテル関係者が参集するが、コロナ禍により昨年に続き、リモートによる無観客開催となる。全国大会開催を前に、多田計介会長(石川県・ゆけむりの宿美湾荘会長)に組織の現在の活動状況、「ポストコロナ時代」を見据えた今後の施策を聞いた。(聞き手=本社・森田淳)

経営・金融支援へ大規模陳情 GoTo再開など消費喚起も

 ――コロナ禍が1年半以上続く。組合員旅館・ホテルの経営の実態は。

 多田 日に日に悪くなっている。全旅連のポストコロナ調査研究委員会で3回にわたりアンケートを行い、組合員の皆さまの声を丁寧に集めているが、金融支援に関しての意見が目立って増えている。

 今回、国や地方に向けて大規模な陳情を始めたが、要望の一番を「宿泊事業者に対する経営および金融支援の強化」にした。

 Go Toトラベル事業の再開など、「観光消費喚起に対する支援の強化」も挙げているが、「そこまで持つか」という組合員の声がある。何を差し置いても経営と金融の問題。特にこのことをしっかりと訴えていかねばならない。

 アンケートを読んでいると、「借入返済という荷物を背負いながら事業を継続していくことはあまりにも理不尽で納得がいかない」「外出自粛という政府の政策のもと、われわれは営業をしてきた。去年はGo Toや経営支援の観点からのさまざまな補助金が出た。ところが今年は状況がさらに厳しくなっているにもかかわらず、何の追加措置もない。いい加減に我慢の限界だ」と切実な声が聞こえてくる。

 菅首相が退陣し、総裁選、そして衆院選がある。今が声を上げるタイミングだと、われわれは動き始めた。徹底的に全国展開しようということだ。

 ――進捗(しんちょく)状況は。

 多田 まず、観議連(自民党観光産業振興議員連盟)の先生方から始め、総裁選が終わった後から中央での動きと並行して地方での活動を本格化させている。

 ハンディサイズの要望書を作り、47都道府県の旅館ホテル組合を通して全国1万5千の組合員旅館・ホテルに送った。衆議院、参議院問わず、選挙のあるなしにかかわらず、各地の先生方に渡してくださいと依頼をしている。皆さん苦しい状況だから、かなり協力してもらえるのではないかと認識している。われわれの苦しい状況を先生方に伝えることで「何とかしなければ」と、良い方向に向かっていくはずだ。

 ――昨年の今頃はGo Toがあったが、今年はないのがつらい。

 多田 要望書の中で、コロナ前、昨年と、今年の宿泊者数がこんなに違うのだと一目瞭然にするため、グラフを描いている。去年は7月からGo Toが始まり、月を追うごとに全国の宿の業績が右肩上がりで回復していった。そして11月には最高潮に達した。半年以上ぶりのうれしい悲鳴が聞こえたが、感染の再拡大で年末にGo To事業が一時停止してしまった。

 キャンセル料の補償はありがたかったが、それ以来、政策上の支援がない。人流を止めたのは政府の方針だ。感染対策上のことで、それに対して文句を言うわけではないが、人流を止めて一番打撃を受けたのはわれわれ宿泊業界だ。止めた以上はフォローをするべきだが、それが全くないのは合点がいかない。強く声を上げなければと、今回の判断に至ったわけだ。

 ――Go Toが感染拡大の原因と一部で指摘された。

 多田 もちろん納得がいかない。ただ、当時は反論するにはあまりにも状況が悪すぎて、我慢した面がある。再開が取り沙汰される今は、いまだにそのようなことを言う人には徹底的に反論をしなければならない。

 旅行で感染が拡大するのではなく、生活様式からだ。旅館で感染者が出たケースは非常に少ない。クラスターも聞いたことがない。われわれ宿泊業界は感染拡大防止にかなり気を付けている。

 ――野外コンサートで感染が拡大したとニュースになったが、旅館では聞かない。

 多田 従業員やお客さまの検温、手指の消毒、換気など、相当気を配っている。飲食店を責めるわけではないが、「大丈夫か」という店がある。地下や狭いところは扇風機を回すなど工夫をしなければいけないが、それができていない。情報がないからできないのではないか。

 本来、国民が知っていなければならない情報があまり出てこない。メディアの責任もある。最近、NHKで、レポーターが食べるときだけマスクを外し、話すときは付けるということを徹底していた。国民への意識付けとして良いことだと思う。10人のうち9人が正しい対策をしても、1人ができなければアウトなのだ。

 個人主義ではなく、他人に迷惑をかけてはいけないというのが日本人の美意識。国民が一致団結して取り組むことがコロナに対する防御、これから来るといわれる第6波を防ぐことにつながるのではないか。

 去年の7月17日、宿泊4団体が赤羽一嘉国交相(当時)に呼ばれ、「宿泊業界は感染防止対策を順守します」という宣言を行った。私は人吉へ災害のお見舞いに行かなければならず、全旅連からは東京都組合の斉藤源久・前理事長に出席してもらった。宣言文は全日本ホテル連盟の清水嗣能会長が読み上げた。国交相から強制するのではなく、こちら側がやりますと宣言するのだから、絶対に順守しなければと、私も重く受け止めた。

 ――災害といえば、このところ毎年のように発生し、宿泊業界も直接の被害や風評被害を受けている。

 多田 経済的な損失について、何の補償もない。被害を受けても泣き寝入りになってしまう。対応してもらえるように、行政に働き掛けることがわれわれの組織としての役目だと思っている。

 一つ良かったことは、自治体との災害協定が結ばれていることだ。47都道府県旅館ホテル組合と自治体との災害協定が、全ての都道府県で締結された。被災者に体育館のような場所ではなく、われわれ組合員の旅館・ホテルに泊まっていただく。社会貢献を果たすことでわれわれが目指している業界の地位向上にもさらに一歩近づくのだろうと思う。

 

「風営法適用」終わらせるべき 次世代が胸張れる業界に

 ――多田会長は旅館・ホテルの風俗営業法適用について、かねて疑問を唱えていた。

 多田 全旅連の政策委員会でこの問題を議論してきたが、10月1日に内閣府の規制改革推進会議で、この問題について意見を述べさせていただいた。会議の有識者が「これは変えるべき」と判断すれば、警察庁との調整の上、何らかの判断が下される運びとなる。私の任期中は無理だと思っていたが、思いもよらず動き始めた。観議連を通じてさまざまな形で言い続けてきたことで取り上げられたのだろう。言い続けることが大事だとつくづく思った。

 そもそも私がこの業界に入った40年前、業界のことを勉強したときにぶつかったのが、この風俗営業法の適用だった。われわれは次世代の人が胸を張って事業を継承できる業界にならなければいけない。社会の役に立つ、存在感のある業界にならねばならない。ほとんどの経営者は地域社会に貢献している。地域の事業に人もお金も出して、発展に協力している。ただ、残念ながら風俗営業法の適用という、存在が疑問視されるような扱いに甘んじている。もう終わらせるべきだ。

 ――「接待」を行うから法が適用されるというが、どの行為が接待なのか、あいまいな点や行き過ぎたところもあるようだ。

 多田 県によって運用基準が違うところもある。指針をはっきりと示してほしい。

 いずれにしても、法律ができた当時と今とでは現場の実態は大きく変わっている。10年間、法律違反をしなければ3年に一度の講習が免除になる制度が作られているが、これで納得するわけにはいかない。

 

旅館業法第5条 館主に判断委ねよ 「明るい未来」を自らの手で

 ――旅館業法の見直しが厚生労働省の検討会で議論されている。多田会長は検討会の構成員だ。今までの議論の流れを整理すると。

 多田 問題になっているのが宿泊拒否制限を定めた第5条だ。

 宿泊拒否ができるケースとして「宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」などと定められている。

 この「明らかに」という言葉が問題ではないか。われわれは医者ではないので来た人が明らかに伝染性の疾病であるかなど分かるわけがない。判定するのは医者だが、実際に24時間365日、われわれの元にチェックに来られるのか。「明らかに」などとせず、判断をある程度、館主に委ねることがあってしかるべきだ。感染力が高い疾病がまん延しているときに、明らかでなければ拒否できないというのはおかしい。

 ――旅館業法は第6条も議論されている。

 多田 宿泊者名簿について、宿泊者の住所、氏名、職業などを記載しなければならないが、職業は不要ではないかという意見が多い。私もそう思う。

 例えば緊急事態のようなときには追跡のために必要という考え方もあるかもしれないが、構成員の中では不要でほぼ一致している。

■    ■

 ――今年の全国大会も昨年に続き、無観客のリモート開催となった。

 多田 非常に残念だが、時節柄、やむを得ないと開催県の福島県組合の判断もあり、このような決断に至った。ここは我慢をして、来年につなげようということだ。

 ――大会の様子は動画投稿サイト「ユーチューブ」でライブ配信される。当日はどんなあいさつを。

 多田 まずは組合員の皆さんの苦労をねぎらうこと。そして、明るい未来を自分たちの力で作っていこうというメッセージをお伝えしたいと思う。

 ――全国大会を前に、組合員へ一言。

 多田 本来ならば皆さんと直接会って、コミュニケーションをとることが一番なのだが、このような情勢で時期尚早と、今回も判断をさせていただいた。

 特に今年は東日本大震災から10年。被害を受けた福島県で地元の方や全国の方と復興の手応えを確認したかったのだが、本当に残念だ。

 しかし、IT技術が発達し、遠隔地とのコミュニケーションが容易にとれるようになってきている。ライブ配信を通じて復興に向かう福島の勢い、そして私の思いが少しでも伝わればと思う。

 

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