政策実現へ着実に成果 業界の地位向上を常に念頭に
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)青年部は12月10日、宮崎市のシーガイアで第27回全国大会を開く。全国の青年部員ら千人規模が参集し、業界のさらなる発展に向けて結束を確認する。第26代青年部長を務め、来期(2025、26年度)の部長にも内定している塚島英太氏(長崎県・ホテル長崎)に塚島体制1期の振り返りと部長再登板への思いを語ってもらった。(聞き手=本社・森田淳)
塚島部長体制の回顧
――塚島部長体制の約1年半の回顧を。
「政策実現」「地位向上」など、七つの方針を掲げてこれまで活動を進めた。
活動の一つである陳情について、おおむねいい結果を出せたのではないかと自負している。私は全旅連青年部活動が16年目になるが、親会と青年部との距離が今まで以上に近くなっている。陳情活動でもわれわれと親会が一体となって動けたことが成果につながっている。
これまで10人、20人、多くても50人で行っていた陳情が、いまや100人を超すことが当たり前になった。国会議員の先生方の事務所からも、議員会館に紙を持ってくるだけの団体が多い中で、しっかりとアポを取り、一つ一つをしっかりと説明する全旅連青年部を評価していただいている。それぞれの県の青年部員が、先生方が地元にいる時も陳情をかけたり、日々綿密に連絡をとっていたりと、“裏の陳情”を行っていることも功を奏している。
親会の会長が青年部長OBの井上さんになり、専務理事に政治に詳しい亀岡さんが就任した。2人のご指導のもと、どの先生がどのような立場で活動をされているかなど、しっかりと勉強をして臨んでいる。これも非常に効いている。
旅政連(全国旅館政治連盟)による先生方との懇談会「全国旅館政治連盟の集い」には、100人を超す先生方に来ていただいている。人数もさることながら、あいさつの中で「皆さんは地域の要です」「地方創生の成否は皆さんにかかっています。頑張ってください」と、表向きではなく、心底思っていただいていると肌で感じている。
観光を所轄する国交省、観光庁に行く機会は従来の10倍は増えた。月に5、6度と、ほぼ毎週に近い。観光に関わるさまざまな事柄について、相談をするとともに、一緒に解決しようとも言っていただいている。前期の星部長、その前の鈴木部長の時代から取り組み、5年、6年たって花が開いてきたという感じだ。
補助金一つを取っても、以前は「この補助金をどう使うのか」という相談をしていたものだが、今は全く逆で、省庁が予算要求をする前に、われわれが困っていることを相談し、解決のためにはこのような補助金が必要だと、打ち合わせの段階から参加をしている。全国の宿のお声を施策にしっかりと反映させるよう、取り組んでいる。
――青年部の大きな事業に、全国の宿と観光の魅力を一般の消費者にアピールする「宿フェス」がある。
宿フェスは第3回を来年2月に行う予定だ。前回の今年2月は3万人を超す来場があったのに加え、全旅連を含めて業界全体で推している温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けて、菅元首相に第1号の署名を行ってもらったこともインパクトがあった。
来場者に47都道府県のブースを見ていただき、国内旅行の魅力を感じていただいた。インバウンドの方には東京、京都、大阪だけではなく、地方の魅力も感じていただきたいと思っているのだが、たまたま私が山形県のブースにいた時に、山寺の写真を見ていた外国人の方が「グレート」「これは京都か奈良か」と聞かれて山形と答えると、「地方にもこのような素晴らしい所があるのか」と認識をしていただいた。
今まではどちらかといえば内向きの事業が多かったのだが、私の期では外部への発信を少しずつしている。一般の方に認知されてこそわれわれの業界は発展するのだという意識の下に、そのように動いている。
――その他の事業について。
大学生対象のインターンシップ事業「若旦那若女将密着体験プロジェクト」は既に十数年と続いており、一昨年に千葉県、今年は神奈川県で開催した。宿の仕事を実体験していただく中で、旅館・ホテルで働くことに対して多くの興味関心を持っていただけたのではないかと思う。
世界の同業者と民泊問題を話し合う「グローバル リフォーム ビーアンドビー」にわれわれが参加している。昨年はアメリカのワシントンDC、今年はコロンビアのメデジンで開催された。一昨年は京都での開催をわれわれが誘致した。
先輩方のおかげで一定の規制を伴う法律ができたが、見直しの時期になる。業界の思いをしっかりと伝えることがわれわれ青年部の仕事だと思っている。
8月10日の「宿の日」事業は、一昨年に全国各地で花火を上げるイベント、今年は「宿の日ウイーク」と銘打ち、OTAの数社と、この時期に泊まるとさまざまな特典が付くというキャンペーンを行った。かなりの実績があり、来期は親会とも共同で、さらに拡大して行いたいと思っている。
外国人労働者の受け入れ環境整備へ、特定技能の試験運営に関わるほか、アジア各国でのジョブフェアに参加し、現地の人材や関係者と直接話をしている。特定技能人材の受け入れは、宿泊業はなかなか進まないといわれるが、これらの活動によってこれから本格化するだろう。
「青年部セミナー」という事業を今期から始めた。青年部は月に一度は必ず常任理事会を開催することにしているのだが、大きな議題がない時も何か学びや気付きを得てもらいたいとセミナーを開催している。
何よりも目指しているのは、われわれ宿泊観光業界の地位向上。決して卑下するわけではないが、われわれ業界の地位は決して高くない。それを上げていくのがわれわれの一丁目一番地だ。どの活動をするにしても、それを常に念頭に置いている。
「IMPOSSIBLE IS NOTHING(不可能なものはない)」を1期2年のスローガンに掲げた。事あるごとに言い続けて、初めはきょとんとしていた全国1500人の部員の皆さんも、今では同じような思いを持っていただいているのではないか。
9月19日に行った臨時総会で塚島部長を次期部長予定者として承認した
今後の事業展開
――今期が残り約半年。大きな事業がまだ控えている。
12月の全国大会はコロナ明けの1回目となる。全国の皆さまに交流を深めてもらう場をつくろうと、開催県の宮崎のメンバーがかなり頑張っている。1人でも多くの部員、OBの方にお集まりいただき、コロナ禍後の宿泊観光産業の未来について、語っていただければと思う。
2月の宿フェスは、SDGsをテーマの一つに考えている。われわれは避けて通れないし、ほかの産業以上に力を入れていかねばならない。
「持続可能」といわれるが、われわれの同業者には、ギネスブックにも載るほどの、1300年も続く旅館がある。どんな地方にも伝統文化があり、それを体現しているのがわれわれだ。宿を運営すること自体がSDGsといえ、われわれ業界がいかに寄与しているかを、イベントを通じてアピールしたい。SDGsの優良事例を集めており、その表彰式も行う予定だ。
前回同様、47都道府県の宿や観光の魅力をブースとステージでアピールする。国内旅行の需要拡大へ、「まだ見たことのない日本を見てみませんか」と、広く一般の方々にアピールしたい。
――宿フェス会場では、隔年事業の「旅館甲子園」も今回、開催される。
宿といえば豪華なハードやおいしい食事、温泉、ということに目が行きがちだが、この旅館甲子園は宿で働く人にフォーカスする事業だ。自分の仕事がいかに誇りを持てるものなのかをスタッフ自らにアピールしてもらう。「輝く人、輝く宿が日本を元気にする」というコンセプトだ。今回が第7回で、私も1回目から関わっているが、基本はぶれていない。
日本中、さらには世界中が人手不足といわれるが、働いている人たちが光り輝いている姿を発信する。このことが問題解決の一助となると信じている。
――青年部長の任期は1期2年だが、来年度からの次期部長にも立候補し、先の臨時総会で承認された。2期続けての部長就任は青年部草創期にはあったようだが、近年では初めてだ。
これについては悩みに悩んだ。青年部はチャレンジの場であり、限られた任期の中でやりたいことをしっかりやる、志半ばでできなかったことは後任を育ててしっかり伝える。そのような伝統が55年間続き、その伝統を私も大事にしていたところだが、それでもという思いがあった。
冒頭申し上げた通り、全旅連青年部で活動して16年。副部長も4期8年。井上会長、亀岡専務の存在があり、今まで以上に親会との距離が縮まって、さまざまなことで成果を上げてきた。ただ、これだけ変えられるのならば、もっと変えられることがあるのではないか。私なりに志半ばなことがあったのが一つ。
もう一つは井上会長の存在。宿泊観光産業の地位向上へ、会長をさらに支えていきたいと思ったからだ。
青年部の伝統を守らなければと、後任に思いを託そうと話をしたことがあった。しかしその方が「本当はもう1期やりたいんでしょう。やりたいなら英太さんらしくやっていいんじゃない」と話をしてくれた。それが最後の一押しになった。
――正式には来春の定時総会から第2次塚島体制が始動する。新体制の方針は。
前期からのやり残し、踏襲するものはもちろんあるが、時代はすごいスピードで動いており、新たな課題もどんどん出てくるだろう。
基本はぶれることはないが、これら課題に親会とさらに連携を強化して対応することだ。
宿泊観光産業の地位向上へ、親会と青年部の垣根を越えて、取り組んでいかねばならない。
――青年部の全国大会が12月10日、宮崎県で開催される。全国の部員にメッセージを。
業界の課題は山積している。誰かが動かなければ解決しない。やらなければならないことを率先してやろう。そう2年間、言い続けてきた。部員の皆さまにも伝わっていると思うが、この思いをさらに強く持っていただきたい。
全国大会は、少し偉そうに言えば、「われわれ責任世代が宿泊観光産業の未来を切り開く」ことを確認する場だと考えている。また、そのような場になってほしいと思う。
「宿サステナブルアクション」導入目指す
――「“宿”サステナブルアクション」の導入を目指しているという。どのようなものか。
日本の地域には、豊かで美しい自然や景観、歴史的な建物、昔から親しまれ脈々と受け継がれてきたお祭りや伝統芸能など、それぞれの地域に根差した固有の魅力がある。しかし今、多くの地域でこうした大切なものが失われつつあり、それとともに地域社会自体の存続も厳しい状況に陥っている。
地域とともに歩んできたわれわれ宿泊観光業界としては、こうした状況を黙って見過ごすわけにはいかず、宿泊したお客さまに寄付金をお願いし、自然保護、景観の改善、歴史的建造物の保全、伝統芸能の保護、お祭りの維持など、それぞれの地域社会の持続可能性(サステナビリティ)を高める取り組みに充てさせていただく、という新たな挑戦を始めたいと考えている。
もちろん、使途については、当然のことながら寄付していただくお客さまに納得感のあるものにしなければいけないし、そして、金額とともにしっかりと公表する必要があると考えている。
来年の宿フェス会場で発表をして、具体的な取り組みを始めていきたいと考えている。
「“宿”サステナブルアクション」の導入は次回(来年)の宿フェスで発表する予定だ(写真は前回の宿フェスの様子)