【創刊70周年論文コンテスト】最優秀賞(観光庁長官賞) 「α世代の観光への提言~観光と地方の博物館を結び付ける~」 吉岡けい子氏


 1 はじめに

 旅行・宿泊・飲食・運輸・製造などでまとまった力を持つ観光業は、これまで人々の余暇活動を進化させてきた。風光明媚な自然、歴史を感じさせる史跡等人が行きたがる場所や食処を巡る観光から、体験型観光、そして最近のインバウンド観光や受け入れる側が企画する着地型観光など、その時代に応じて観光の魅力を作り上げてきた。

 デジタル化が進む中、奇しくもコロナウィルス騒動で働き方、働く場所が変わり、三密を避ける日常生活が始まり、旅行がしづらくなった今、観光産業にとって大きく舵を切るチャンスが訪れた。

 そこで、観光とは縁遠いと思われている博物館が、次世代の観光に魅力をもたらすかもしれないことについて、微力ながら観光と絡めながら教育普及に努めた元学芸員の立場から提案したい。

 博物館とは、「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資するために必要な事業を行」うものである(博物館法第二条)。

 筆者が所属した頃の県総合博物館は、考古分野が独立して単館に移行する時にあった。国の補助金の関係で大規模な体験施設が先行して建設され、運営が開始された。そのため筆者が体験施設の学芸員として赴任した。先に述べた博物館の業務の中の「教育普及」に特化する日本初のユニークな「教育普及を専門にする学芸員」となったのである。欧米では明確な位置づけがなされている「ミュージアムエデュケーター」に相当する。しかし、残念なことに考古博物館本体が出来上がってしまうと、「教育普及を専門にする学芸員」は一般の「学芸員」に吸収されてしまった。このことは、博物館の教育普及活動が観光や地域創生と密接にかかわりあうことで広がる可能性を感じた身としては、やり残し感が大きかったのである。ここでは、観光業と博物館とがウィンウィンの関係になって観光市場に活性化をもたらす提案をしてみたい。

 2 地方にある博物館の現状

 博物館と言っても種類が多い。一般的には教育委員会に登録された「登録博物館」と指定された「博物館相当施設」、それに登録も指定も受けていない「博物館類似施設」を合わせて博物館と呼ばれている。動物園や水族館、植物園も博物館である。

 世界の有名な博物館で、例えば大英博物館の場合、2019年の入館者数は、6,239,983人(ALVA―リーディング・ビジター・アトラクションズ協会―発表)で、年間5日の休館日を差し引き単純計算して一日平均17,333人の入館者数があることになる。

 日本でも、特別企画の内容によっては一日当たりの入館者数が非常に高い博物館があり、美術館に多い。展示期間は1ケ月から数カ月までと条件は異なるが、一日平均入館者数が多かったのは、例えば、2018年度に開催された東京国立博物館の「正倉院の世界」展(9,786人)、「国宝東寺」展(7,484人)や東京都美術館の「ムンク展」(8,931人)、クリムト展(7,915人)などである。人口の多い地域で開催されていて、予算規模の小さな地方の博物館では、なかなか開催できない豊富なコレクションが並ぶ。地方からの鑑賞ツアーが組まれるくらいの人気である。

 下表は、入館者数の多い上記の博物館をも含めた入館者数の平均値である。一館当たりの入館者数を見ると、総合博物館、美術系博物館・歴史系博物館では非常に少ない。これらの多くが地方に設置されている。

 全国博物館協会が平成29年に発表した博物館調査によると、4,096館中、回答2,258館の調査結果でみても、年間5,000人未満の博物館が全体の4分の1を占めている。このことは、ポジティブに見ると大部分の博物館にまだまだ伸びしろがあると言える。

 博物館や行政の努力で観光資源となった金沢市立の「金沢21世紀美術館」、生き物のダイナミックさを見せる行動展示で人を引き付けている「旭川市旭山動物園」など、地方にありながら単体でも来館者数の多い博物館もあるが、行政の支援が無ければ独立採算の取れない博物館が多いのが現実である。地方の博物館は、入館者を増やしたいのである。

 

 3 ターゲットはα世代

 インターネットが普及した1980年代、1990年代に生まれた人たちをY世代と呼ぶ。デジタルネイティブともいわれ、生まれた時からデジタル環境で育ったY世代に続くZ世代は、コミュニケーション手段を変えた。SNSで発信された個人の情報がブームを作り出す時代となった。YやZ世代を親に持つ次世代の子どもたちをα世代と呼ぶ。彼らが成人する2050年代以降の観光業は、新たなウィルスとの戦いを想定して、必要以上の人との接触を避けながら、多様化・深化したニーズに応えなければならなくなるであろう。進化と同時に懐古・復古の機運も高まるので、過去の観光パターンが廃れるわけではない。観光開発は多岐にわたるであろう。

 ここで、α世代の生活を想像してみよう。

 月1~2回の会社勤務があるとしても、ほぼ在宅で勤務する。簡易防音装置のついたリモート会議対応の仕事部屋を持つ住居がスタンダードとなる。大型のモニターで会議参加者の顔を大写しにし、オフタイムには、そのスクリーンでインターネットテレビを見たり、コンサートや旅行気分が味わえる番組を見たりする。テレビはない。デジタル翻訳の機能向上により言葉の不自由が無くなり、国籍の異なる友人を持つことは珍しいことではない。ショッピングは生活用品を始めほとんどのものをインターネット経由で購入し、個人輸入も厭わない。人混みの中に出かけるより、プライベートな空間を好み、実際にどこかに出かけることは、日常に大きな変化をもたらす一大イベントとなる。そういう意味では、リアルを体験できるこれまでのような旅は、これまで以上に特別な時間と空間になるのかもしれない。

 4 AIの普及によってクリエイティブなことが求められるα世代と博物館

 AIやロボットの普及は、人間から仕事を奪うと言われて久しい。クリエイティブな仕事は最後まで残るという。クリエイティビティとはひらめき、アイディアを引き出す発想力を原動力として新しいことを生み出す力のことである。すべての人間が生まれながらに想像力豊かであるとは言えないから、ここに博物館からヒントをもらうという企画が生まれるのである。

 コンサートで音楽を聴きながら、ふと仕事のアイディアが浮かぶことはよく知られている。美術館などでもその雰囲気に溶け込んでぼうっと見ていると、ひらめくことがある。これは、日常と異なる刺激を脳に与えた結果起きると言われている。
そのような消極的な博物館の使い方とは別に、ヒントを求める積極的な使い方もある。博物館には、個人のスキルアップにつながるヒントがいっぱい詰まっているのである。

 例えば、テキスタイルデザイナーやファッションデザイナーについて言えば、思いもしなかったようなデザインに博物館で出会うことができる。縄文土器の文様、華やかに色をまとった飛鳥時代の豪族の衣装、繊細で艶やかな色遣いをした平安貴族の色に対する意識などのヒントが豊富にある。同じ職種を集めたパッケージツアーは、横の連携を作る新しい出会いの場になると思われる。

 5 観光業と博物館のウィンウィンの関係

では、α世代を見据えたこれからの観光業に博物館がどのようにかかわっていけるのであろうか。

 (1) リモートオフィス付き宿泊地と博物館

 不動産業界では、すでに観光地や温泉地の不動産物件をリモートオフィス付き物件にリフォームし、賃貸を開始しようとしている。観光業界でも、各地を転々とするα世代をターゲットに都会の賃貸料金で地方のホテル・旅館住まいを整えようとするのは、普通に考えるであろう。

 ここでは、観光業ならではのリフォームを空室の目立つホテルや旅館と協力して、独自の募集を手掛けることを提案したい。部屋をリモート仕様にするだけではなく、α世代が好む本物の復元を行うのである。それっぽいまがい物はよろしくない。

 そのヒントは博物館にある。有名作家や画家の生まれ故郷の博物館には、書斎やアトリエなどが展示してある。また、古代住居、平安時代の貴族の部屋、江戸時代の武士や町人の部屋など、その地域の特色を捉えた住居の復元は、地元の歴史・民俗学系学芸員が一番詳しい。博物館の常設展示は、歴代学芸員の努力の結晶である。昭和の家の展示だってある。博物館の展示であれば見るだけであるが、復元に絡む利権を整理すれば、実際に使える部屋を制作復元することができる。建築博物館においては、建築に関する英知が詰まっている。

 博物館は、年数回の大規模な特別企画の展示を業者から購入しても、自分たちの展示を売ることができるとは思っていない。学芸員自ら行った企画展示が活用され、博物館の収入が増えるきっかけが得られれば、協力する博物館が増えるはずである。

 手塚治虫の復元部屋に住み、漫画を描くα世代、また、クロード・モネの復元アトリエで絵を描くα世代の画家がいてもよい。どこにいても仕事ができる時代だからこそ、そんな地方のユニークな部屋に日常を置いてみたいと考える人がいるのではないだろうか。

 全国各地にあるそんな部屋を持つ家や宿泊地を束ねて、募集サイトを立ち上げることは、観光業にとってはそう難しいことではない。新たな観光業のビジネスチャンスになると思うのだ。観光業と博物館がウィンウィンの関係になることができるかもしれない。

 (2) 観光業は博物館の同じ趣味や生きがいを持つ人たちを結びつける

 知的な遊びにあふれている博物館には、観光業がまだ対象にしていないシニア男性が大勢いる。彼らが、まだ全国組織やまとまりを持たないままの大集団であることをご存知だろうか。彼らとは、その博物館周辺に住む地元の人たちで構成される案内ボランティアや友の会メンバーのことである。一つのテーマを掘り下げることが得意な研究者タイプの学芸員は、一見地味だが、ボランティアガイドに応募してくる大勢のシニア世代の方々を率いていることが多い。学芸員は、全国組織の会議や研修会に参加する機会があって、横のつながりが構築されているが、案内ボランティアには地域内でのつながりしかない。ブログやSNSで活動の様子などを発信できる人もいるが、YやZ世代になれば、当然全国規模の横のつながりがほしくなるはずである。

 例えば、歴史系の博物館を例にとってみよう。

 日本のほぼすべての市町村には大なり小なり歴史系の博物館・資料館が存在するが、一つ一つを観光資源として見るには小さく、魅力に乏しい。しかし、大きな括りで見ると「古墳のある町」「合戦があった町」「ダムに沈んだ町」「空襲を受けなかった町」など、共通点を結び付ければ規模は膨らむのである。

 健康なシニアが多く実践している案内ボランティアの数だけでも、相当な数が存在する。シニア男性の知的探求心は強く、鋭いので地方史の研究を深め、広めるのに大きな力となっている。どちらかと言うと自分なりのテーマを追求している人が多い。今のところ、その知識と長年の個人的な研究は、案内という形でしか発表できていないのが現実である。彼らの案内は熱心で詳しいのだが、残念なことに、必ずしも楽しませてほしい、遊ぶように学ばせてほしいと思っている大多数を占める学童集団や観光客のニーズに合っているとは言えないのである。

 学術学会や製品展示会などに伴う人の移動を支えてきたのは観光業である。もし、「我が町の古墳を語り合う会」や「我が町の古戦場から戦法について語り合う会」などを開催すれば、シニア男性の生きがいの場が増えるに違いない。初年度はリモート会議でも、次回からは毎年場所を変えて訪問し合う旅行企画などに進化すると思われるのである。α世代になれば、そこから新たな職種が生まれるかもしれない。

 博物館のテーマが結び付きそうな館は日本中いくらでもある。そのコーディネーターに誰がなるのかによって、次の業界の動きが決まってくる。博物館がコーディネーターになったとしよう。はじめは、2か所をつなぐテレビ会議くらいなら博物館同士で行えても、交流事業になれば観光業の出番である。しかし、観光業は出番を待つのではなく、自らが博物館をつなぐことで、ビジネスチャンスは広がると考える。1カ所でも成功事例を作り上げれば、全国の博物館から手が上がるはずである。喜んだ博物館は、交流の成果をHPでアピールして盛り上げるであろう。

 (3) お堅い博物館を柔軟に眺める仕掛けを作れば、ブームが起きる

 人間関係が希薄になるα世代にとって、笑いは今まで以上に大切な精神の栄養になるだろう。静かに見なければならなかった博物館の展示が、大笑いしながら見て回ってもよいものになったら楽しいのではないだろうか。

 イヤフォンで聞く展示解説が、お笑い芸人のコント解説なら楽しいだろうし、頭にすんなり入ってくると思う。

 例えば、歴史博物館で、

 学芸員「縄文時代の土器から炭化したどんぐりが見つかっていますので、どんぐりを食べていたと分かります」

 お笑い芸人「そんなこと、分からんでしょ。まずくて捨てたんとちゃいまっか?」

 などと、聞こえて来れば、別の視点でものを見る楽しさが増す。

 公立の博物館において、このような提案は、少なくとも筆者が現役だった時代には、内部の人間では成し遂げられなかった。どこかの博物館がやってみて、入館者数が増えたとなれば真似ることはするかもしれないが、自ら冒険することはできないのである。

 ここに、外部の力が入り込む隙がある。学芸員がコントを作ることは不可能であろうが、お笑い芸人に研究成果を提供する学芸員は数多くいると思う。観光業が展示を楽しく見るツアーを企画し、博物館に人を呼ぶきっかけを作れば、博物館にコント解説の著作権を貸して使用料を取ることも可能である。一つのブームを作ることができると思われる。ここでも、観光業と博物館がウィンウィンの関係になることができるかもしれない。

 6 博物館と観光を結びつけるコーディネーターの必要性

 2017年に騒動になった地方創生相の「学芸員はがん」発言は撤回されたが、博物館や学芸員に外からの力が少し加われば、地方創生相が言いたかったことに近づくことができると考える。

 これまで遠足や修学旅行にしか振り向かれなかった地方の博物館は、使いようでは大いに魅力的素材を持っている。全国には地道にコツコツと研究成果を積み上げてきた学芸員が大勢存在する。

 様々なリサーチを行って時代の動向を見極めてきた観光業が、地方の博物館の魅力に気づき、観光資源としてユニークな結びつきを行えるコーディネート業務にのり出されんことを願う。学芸員と観光コーディネーターが結びつけば、化学反応を起こし、α世代への新たな観光をリードできると思う。

 7 日の目をみなかった私の妄想ツアー

 最後に、自分が直接かかわった考古学分野で、講座として反響があったが、観光の目玉にしたり、観光土産に結びつけようとしたりしたにもかかわらず、力不足で断念した企画を紹介しておこう。他の博物館でも同等やそれ以上のユニーク・人気講座がたくさんあるので、ぜひ知ってほしいと思う。

 社会教育の立場では、雇用拡大につながる企画や利益を生み出すための企画はなかなか理解が得られない。ぜひ、観光業との新しいタイアップで地方にある公立の博物館にも風穴が開くことを願っている。

 その1

 学芸員時代、「真冬に古代住居に寝泊まりしてみる」という、これといって目的のない考古学実験を行った。テレビ局が、珍しいとその日の夕方に生放送をし、それを見た近隣の若者が焼酎をもって「本当にやっているのか」と尋ねてきた。募集もしないのに集まった人たちにも古代衣装を貸出し、皆、めったにできない体験を喜んだ。考古学実験としては、一晩で燃やす薪の量の目安が分かり、定住と森の関係や村の居住人数の限度について見解が持てた。また、住居内の炉からから立ち上がる煙が、住居を葺いている茅の虫よけになることは分かっていたが、翌日、自分たちも煙にまみれ、特に髪の毛に付いた匂いは強く、これも虫を近づけない効果があると分かった。首輪もつけず飼い犬を参加させていたので、古代の犬の行動にも思いを馳せることができた。

 これは面白いと体験講座として企画、埋蔵文化財センターの職員たちも手伝うと言ってくれたので、綿密に安全な計画を練った。しかし、「何かあったら責任は取れません」という館長の一言で没になってしまった。地域の宿泊施設にも影響を与えることができると思ったのだが、内部の力では変われない、外部の力がほしいと思った瞬間であった。

 その2

 演劇の持つ力は計り知れないと思っている。簡単な舞台設定の中で状況を作り上げ、役者の演技と共に発せられる言霊は、観客の脳裏に壮大な絵を描くことができる。

 博物館展示に足りないのは、「人」である。その展示物をどんな人がどのように使ったのか、そこで何をしていたのか、何を話していたのかなどを演劇の力を借りることで、より臨場感あふれる生に近い情報を学べるはずである。「ものと人の展示」を常設にすることはできないので、一日の中で一定の時間だけ行うか、週末だけの企画として、博物館に古代人を登場させようという企画を練った。地域のアマチュア劇団は興味を示したが、「予算がない」という理由で没になった。展示前の読み聞かせやコンサートぐらいならOKであった。博物館活用に関わる人材を育成し、新たな雇用を生み出すことができると考えたので、資金力のなさを痛感した出来事だった。

 その3

 食は人を引き付ける。大英博物館のミュージアムショップに古代調理のレシピを買いに行ったことがある。それに倣って、力を入れた古代食再現は、今でも人気の講座である。もっとも、焚火料理ということもありスタッフにかかる負担は大きい。

 粘土で作った土器で煮炊きする豚汁は、絶品であることをどれだけの人が知っているのだろうか。これを食べたら、他の鍋で作った豚汁は食べることができないほどの旨さである。

 バケツ2杯分ぐらいの水を土器に入れ焚火にかけると、のんびりゆっくり温度が上がる。水分が土器表面に浸みこんで気化熱を奪うので、ゆっくりと中の温度が上がる。そのため、時間をかけて土器のミネラル分が溶け出す。また、食材、特に肉のタンパク質が分解され、旨味成分であるグルタミン酸がたっぷりと出てくる。土器で豚肉を煮るだけでラーメンのスープだって作れるぐらいだ。

 1回の調理で真っ黒いすすだらけになる土器は、いくら洗っても元には戻らないので衛生面を考えると効率が悪い。しかし、窯があれば、土器の制作時と同じ焼成温度800度以上で焼き直し、すすや土器に浸みこんだ肉の油を焼き落とし、衛生面でも新品同様に再生できる。まさに、古代と現代を融合したサステナブル鍋となるのである。

 また、古代体験少年団を率いた時に、直径1mぐらいの穴を二つ掘って、地下で連結する「連結土坑」で作った鶏肉の燻製も絶品であった。美味しいものに慣れた子どもたちが、落ちて砂のついた鶏肉の砂をはらってまでも食べようとしたぐらいだ。

 どんぐり料理も面白かった。神社の掃除をさせてもらいながらどんぐりを採集して、粉づくりを行った。その粉を調理学校に提供し「どんぐりのレシピコンテスト」を実施、たくさんのレシピと試作品が集まった。これを、郷土銘菓に提案したかったのだが、どんぐり粉の供給ができなくて断念した。学芸員個人の限界を超えていることもあるが、力不足をひしひしと感じるのである。

 その4 その他

 蜻蛉玉作り講座では、講師を育てることができ受講生に新たな生きがいを与えた成功例もあったが、何かの理由でできなくなったり、没になったりした企画も数多い。社会教育の中の博物館講座は、幅広い人々を対象にするので、たとえブームになりそうな人気講座ができたとしても継続して行ったり、独立させて民間の手にゆだね新たな雇用、地域創生、新ビジネスの開拓に、結び付けたりすることが困難なのである。

 鳥の鳴き声の展示に合わせて「口笛による鳥の鳴き声コンテスト」、眺めるだけの展示物鑑賞から一歩進んだ見方を紹介する「〇〇氏はこの展示をこう見る(著名な小説家によるつぶやき解説)」、「サバイバル術向上・火起こしマイスター検定」、「サバイバル術向上・皮のなめし技術獲得会」「古代のスケッチ・イラスト・絵画展」など。これらを観光に結びつけないとはもったいないと思うのである。

吉岡けい子氏

【筆者略歴】1981年3月明治大学史学地理学科卒業。1981年4月~2011年3月宮崎県教育委員会(宮崎県公立中学校教諭、台北日本人学校教諭、宮崎県総合博物館学芸員、宮崎県立西都原考古博物館学芸員、宮崎県文化課文化財課主査、宮崎県公立小学校教頭)。2011年3月早期退職。同年4月任意団体MovingWaves設立(www.movingwaves.com)。

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