食材の仕入れで年に数回訪れていた宮崎県で、日本最大級の照葉樹林を見に綾町という所に行った時のこと。日本で2位という、高さ142メートルを誇る「照葉大吊橋」を渡ってみることに。歩道部分の中央が網状になっていて、真下の渓谷を見通せる。筆者は平気だが、高所恐怖症の人はきっとムリだろう。風が吹いたり、反対側から人が渡って来ると結構揺れて、スリル満点! 素晴らしい景色も眺められ大満足だった。
帰りがけ、橋のたもとの建物の土産物コーナーで、大好物の銀杏(ぎんなん)を発見! 大粒で質が良く、東京ではあり得ないお値打ち価格のその銀杏を、再度入手したい一心で連絡してみたのが「NPO法人ほとくり会」。精神障害者の自立と社会復帰に関わる事業を行う、特定非営利活動法人だ。そのご縁で、今もお付き合いさせていただいている。
キッカケをくれた銀杏、筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社では大量に使用するため、殻をむいてほしいとリクエスト。そして作業所にむき方のレクチャーに出向いた。割れてしまっても銀杏豆腐などに使えるので安心してくださいとお伝えすると、皆さんホッとしたご様子。
その後、最も多く仕入れているのが南天の葉。鮮やかな緑色がお弁当の彩りにピッタリな上、難を転ずるという縁起担ぎも。実は殺菌効果があり、古くから防腐目的で使われていたようだ。これを採取してキレイに洗浄し、パック詰めして送ってもらうのだ。
彼らが手掛けた南天や銀杏が、どのように使われているか? 実際に目で見て食していただけばヤル気も出るだろうと、コロナ前までは定期的に作業所に伺っていた。昼食に間に合うよう一番の飛行機に乗って、早朝に作った30~40個のお弁当を届けていた。
うれしいことに、心温まる取り組みだと、地元紙が2度も取り上げてくださった。
話を戻そう。銀杏の出荷までのプロセスはというと、まずあの強烈なニオイの実を数日寝かせ、軟らかくなったら核を取り出し、丸1日水にさらしてアクを抜く。その後3日ほど干せば、やっと殻付き銀杏として販売できる状態に。時間が掛かる上かぶれたりもするから、本当に大変だ。
先日、東京の緊急事態宣言が解除されたこともあり、同会を代表するお2人が弊社にお運びくださった。周囲を包み込むような優しい笑顔の女性理事長と、明るく豪快な元刑事の作業所長だ。手土産にいただいた銀杏は、殻がむかれていた。ラッキー♪とそのまま素揚げにすれば、薄皮がはじけて中から翡翠(ひすい)色の種子の核「仁」が出てくる。軽く塩を振っていただくと、芳醇な香りとうま味の中に、大人の苦味がいい仕事をしてくれる。あぁ口福♪
公孫樹(いちょう)は、約2億5千万年前の古生代から存在し、「生きた化石」といわれる。恐竜も銀杏が大好物だったとか。氷河期も生き残った、その強い生命力にあやかりたい。中毒を起こすといけないから、おいしくても食べ過ぎにご注意を!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。