竹内氏
神田明神に程近い所に、1軒の小さなイタ飯屋がある。オーナーシェフ、牧田学氏が営む「Ｐａｓｔａ Ｂａｒ ＭＡＫＩＴＡ（パスタバールマキタ）」だ。ランチ時になると、近隣のサラリーマンが列を作る。それもそのハズ、平日限定ランチは数種類のパスタがオール900円とリーズナブル。しかも乾麺125グラムとボリュームたっぷりだから大満足だ。
ディナーでは、いろいろなお料理も楽しめる。筆者のおススメは、ニンニクとジャガイモが超クリスピーな「大山鶏とジャガイモのガーリックソテー」。どの料理も、厳選食材を使用している。例えば「無農薬バジルのジェノベーゼ」に使うバジルは、一般に流通しているスイートバジルではなく、本場イタリアのジェノバで直接買い付けたイタリア原産の品種「イタリアンクラシコ」を、熊本の契約農家さんに育ててもらったもの。日本での栽培は難しいらしく、専用のビニールハウスまで増設してくれたそう。しかも、摘みたてを空輸しているのだ。
調理にも手間暇掛けている。同店イチオシのミートソースは、タマネギやニンジン、セロリなどを3時間かけて丁寧に炒め、やはりしっかり炒めたひき肉を投入、フルボディの赤ワインを入れてじっくり煮込む。仕上げまでになんとトータル48時間もかかるという。
そんなこだわりの料理人牧田氏がこの道を志したキッカケは、中学生のとき見たテレビ番組「料理の鉄人」。調理師専門学校に進み、イタリアンで修業した後に独立したそうだが、なぜ店名に「パスタ・バール」と付けたのか尋ねてみた。
Ｂａｒという表記は同じでも、英語の「バー」は夜お酒を飲む店、スペインの「バル」は終日営業だがタパスとお酒がメイン。イタリアの「バール」は、出勤前の朝食、昼の軽食、夜のアルコールやツマミなどもカバー。業態も店ごとに異なり、料理に力を入れているリストランテ・バールや、ケーキが豊富なパスティチェリア・バールなどさまざま。
そんな中、同氏は、大好きなパスタを主軸にしたいと考えた。実は、彼の修業先の店にはパスタのメニューが126種類もあったのだ。その店主が修業したのは、「ハシヤ」という和風スパゲティで名高い店。ラーメンでいう「家系」同様、その味を受け継ぎ独立した店は「ハシヤ系」と呼ばれるほど多い。マキタはその孫にあたるので、刻みのりの載った「タラコとウニ」のパスタなどもあるのだ。
極め付けは、「ミートソースと納豆」。え？どういうこと？と一瞬たじろぐ。日本一おいしいと自負するミートソースに納豆をトッピングすると、「世界一」になるというのだ。一度は食べてみなくちゃとトライしてみた。濃厚なミートソースと、クリーミーに調理されたひきわり納豆が予想外に合う。納豆好きなら納得の味。クセになる人続出というのもうなずける。
2012年5月創業、今年ちょうど丸10年だ。牧田氏の人柄がにじみ出た、気取らず楽しく味わえるイタ飯屋は、これからも多くの人に口福を提供し続けるだろう。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
