前号の続き。大豆ミートがなぜエシカルなのか? 肉を大豆に置き換えることによって、解決できることがいくつかある。一つは将来の食糧問題だ。国連によると、世界の人口は現在約78億人だが、2050年までに97億人に達するというのだ。食糧も現在の生産量では賄えなくなるだろう。
地球温暖化の影響による農作物の不作で、人間が口にする物だけでなく、畜産業の餌も供給が減るだろう。牛肉1キロに必要な穀物は、トウモロコシ換算で11キロ。今以上、肉類の生産量を増やすのは不可能なのだ。将来の食肉供給不足を補うために、大豆ミートは必要不可欠というワケ。
二つ目は、環境問題の解決。唐突だが、牛のゲップが地球温暖化の一因だとご存じだろうか? 牛など反すう動物は、胃の中の微生物の働きで餌を消化するが、その時、温室効果がCO2の25倍以上もあるメタンガスが発生する。牛は平均毎分1回ゲップをして、毎日約500リットルのメタンガスを排出するそうだ。世界で飼育されている牛は約15億頭、メタンガス排出量も推して知るべし。
日本の場合、メタンガス排出量を二酸化炭素換算すると、全国のバスとタクシー約32万台から排出される量が658万トンなのに対し、牛のゲップは756万トンにものぼるという。
06年に国連食糧農業機関(FAO)が、家畜は世界中全ての車とトラックより多くの地球温暖化ガスを発生させているというレポートを発表。それを知った元ビートルズのポール・マッカートニー氏が、09年「ミートフリーマンデー(肉無し月曜日)」キャンペーンを開始、多くのセレブが賛同し広まった。
植物性食品を中心としつつ、時には動物性食品も食す「フレキシタリアン(Flexitarian)」が増えているが、学術誌「Nature」に発表された研究によると、50年までに多くの人がフレキシタリアンの食生活を実践した場合、温室効果ガスを約56%も削減できると推定している。
ちなみに、メタンガスを出す牛を悪者にしない方法も、各国で研究されている。日本でも、メタンガスの発生を98%も抑制する餌が開発され、多くの牧場で採用されているそうだ。喜ばしいことではないか。
大豆ミートを選択するのはエシカル、つまり倫理的な消費だと、ご理解いただけただろうか? 日本でも「週1ベジ」「ゆるベジ」などが流行の兆しを見せている。今や大豆ミートの他、豆類やさまざまな植物性タンパク質を掛け合わせ、より肉の味に近づけた代替肉も登場し、さらには肉の細胞を培養してできる「培養肉」の研究も進んでいるらしい。
豆好きの筆者は、もっぱら大豆ミート派。中でもミンチタイプは、キーマカレーやミートソースにしちゃえば、ほぼお肉。環境に優しくて、カロリーや糖質があまり気にならないという二つの側面において、罪悪感がなくてイイ。こういうのを、ギルトフリーって言うそうな。週1ベジ、トライしてみようかな?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。