高知県須崎市のご当地グルメ、「鍋焼きラーメン」をご存じだろうか? 鍋焼きでラーメン?と思う方も多いだろう。江戸っ子の筆者も、ご縁あって同県の観光特使を務めさせていただくまで知らなかった。地元の方が、同市の名店に案内してくださったことがある。
土鍋のふたを開けると、鶏ガラスープとおしょうゆの香りが一気に押し寄せる。中身はまだ、グツグツと音を立てているではないか! 少々猫舌の筆者、ちょっぴりひるんだが、レンゲでスープをすくい、フーフーしつつ口へ運ぶと、濃厚なうま味と甘味が混然一体となって滅法ウマイ。バリカタにゆでられた細麺もイイ。
ナゼ、ラーメンを鍋焼きにしたのか? 南国土佐は温暖だから、体を温めるためではない。発祥は戦後食糧難の頃、開業した「谷口食堂」。斜め前の鶏肉店から、鶏がらや廃鶏(親鳥)をタダで分けてもらっていたそうだ。鶏がらスープに、地元産のしょうゆで味を付け、親鳥の肉を具にしたラーメンが評判となり出前も増えたが、届く頃にはすっかり冷めてしまう。熱々のまま食べてほしいと考えた店主が、ホーロー鍋を使うようになった。鍋焼きラーメンの誕生である。後に続いた店が保温性の高い土鍋を使用、時代を経て土鍋が主流となったようだ。
1980年、同食堂は惜しまれつつ閉店したが、「あの味を残そう」と鍋焼きラーメンを提供する店が増加。2002年には高速道路の延伸を機に、須崎商工会議所が地域活性化の起爆剤にと「鍋焼きラーメンプロジェクトX」を発足、「須崎名物鍋焼きラーメン七つの定義」を定めた。
一、スープは、親鳥の鶏がらしょうゆベースであること。二、麺は、細麺ストレートで少し硬めに提供されること。三、具は、親鳥の肉、ねぎ、生卵、ちくわ(すまき)などであること。四、器は、土鍋(ホーロー、鉄鍋)であること。五、スープが沸騰した状態で提供されること。六、たくわん(古漬けで酸味のあるものがベスト)が提供されること。七、全てに「おもてなしの心」を込めること。
面白いのは、卵を食すタイミングによって、味わいが違うこと。最初に卵を崩して麺と絡めながら食べる「卵崩し」。卵が割れないよう鍋底に沈め、温玉状になるまで待つ「卵沈め」。鍋ぶたに溶いた卵に麺をつけて食べる「すき焼き風」。いろいろ試してみたくなる。
話は変わるが、小説や映画のモデルにもなった、同県観光振興部おもてなし課が、今春、組織改正により観光政策課おもてなし室に生まれ変わる。2007年に発足した同課は、気配りが行き届いた「おもてなしトイレ」や観光知識を有するドライバーが質の高い接客を行う「おもてなしタクシー」など、観光客の満足度向上に取り組んできた。おもてなし精神豊かな県民性だからこそ、出前でも冷めない鍋焼きラーメンが生まれたのだろう。おもてなしの心も鍋焼きラーメンも、きっと未来永劫(えいごう)引き継がれていくことだろう。スゴイぜよ、高知!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。