前号で、スパイスカレーの流行と共に注目され人気を博したインディカ種、バスマティ米を取り上げたが、実はタイ米も含め長粒米は、かつて日本人には受け入れがたかったようだ。
明治時代には中国・東南アジア産の長粒米が日本に輸入されており、「南京米」と呼ばれていた。本来ゆでて蒸らす「湯取り法」で炊けば、パサつき過ぎずしっとりした食感が得られるのだが、当時はそんな知識もなく、日本式の「炊き干し法」で炊飯したためパサパサになって不評を買い、貧民の食糧として流通していたという。夏目漱石の小説「坑夫」に、主人公が初めて南京米を食す様子が描かれている。茶碗から飯をすくい出そうとしてもちっともすくえず、「つるつると箸の先から落ちて、けっして茶碗の縁を離れようとしない」とある。さらに、「変な味がした」「飯とは無論受取れない」「全く壁土である」と表現されている。ひどい嫌われようだ。
刑務所に入ることを、俗に「臭い飯を食う」と言う。諸説あるが、南京米を由来とする説も。刑務所の主食は通常麦飯だが、以前は予算の都合で、麦より安いときには南京米を用いたそうだ。現在は「香り米」ともてはやされているが、ネズミの尿の臭いに似ていると敬遠する人も多かったとか。だから「臭い飯」なのだ。
長粒米の地位が随分変わったように、お米の調理法も大きく変わってきた。縄文時代に稲が伝来し、弥生時代に稲作が始まったとされるが、当時はアジア諸国同様「湯取り法」だったようだ。その後、蒸したり、煮ておかゆにしたりとバリエーションが増え、現代の炊飯器に応用されている「炊き干し法」が確立したのは、江戸時代だそうだ。
お米の研ぎ方も、かつての常識が今や非常識になっている。子供の頃、お米をすり合わせるようにしっかり研ぎ、水の色が透明になるまで繰り返すと教わった。お米の表面に残った汚れやぬかを落とすためだ。精米技術の発達した今、その必要はなく、むしろ力を入れ過ぎると表面が削り取られ、うま味や風味も奪われてしまうからNGなのだ。
お米のとぎ汁が水質汚染の原因になるというのも、環境保護への関心の高まりと共に、問題視されるようになった。とぎ汁に含まれるリンや窒素がプランクトンを増殖させ、赤潮やアオコの発生につながるというのだ。そこで開発されたのが、とぎ汁を出さずに済む「無洗米」である。
1991年の登場当時は食味の低下が不安視されたようだが、今は格段においしくなったといわれる。企業にとっては節水になり、上下水道代を抑えられる上、洗米機械の購入費用や人件費の削減、時間の節約などメリットが多い。個人にも、手間が掛からず便利だし、ぬかが除かれているので酸化しにくく、普通のお米より長持ちすると好評だ。
昔と今のお米の扱い方は、大きく違うと分かった。「お米のトリセツ」を常にアップデートして、おいしいご飯が食べられるようにしておきたいな♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。