おせちに欠かせない料理「煮しめ」。同じ煮物でも、案外バリエーションがある。調理法別では煮込みや煮付けなど、使用食材別では水あめを入れる甘露煮、ショウガを加える時雨煮(しぐれに)、かつお節を使う土佐煮、大根おろしと煮るみぞれ煮、葛(くず)でとろみをつけた吉野煮などなど…。
食材によって、煮方は異なる。タップリの煮汁で長時間煮る煮込みは、硬い食材を軟らかくするのにピッタリ。おでんやもつ煮が代表選手。正反対なのが煮付け。少ない煮汁で、短時間で仕上げる。煮崩れしないから、煮魚に向いている。
含め煮は、煮汁が多いのは煮込みと同じだが、煮汁の味を食材に含ませるように弱火で煮るところが違う。高野豆腐やがんもどきを煮るのに適している。
煮浸しは、食材をサッと煮て、煮汁の中で冷まして味を染み込ませる調理法。煮物は冷める過程で味が染みるといわれるが、調理科学的には高温の方が短時間で調味料が食材に染みるとされる。では、ナゼか? それは同じ濃度になろうと働く浸透圧の力だそう。50度くらいに冷めると、食材から出た水分が煮汁と共に食材に戻ろうとするらしい。それを利用したのが煮浸しで、ナスなど灰汁(あく)の強い食材は煮汁の色が黒くならないようこの調理法を使うことが多い。
炊き合わせは、別鍋で煮た食材を一つに盛り合わせた物。それぞれの食材の味や色を生かしたい時や、若布(わかめ)とタケノコの「若竹煮」のように、煮る時間に差がある食材を一緒にする場合有効だ。
旨(うま)煮は食材を甘辛く煮詰めた物。甘煮が変化したとも言われ甘みが強い。シイタケの旨煮のように、照りがあるのも特徴。煮しめと同じ料理を指す地域もある。
煮転がしは、少ない煮汁で、食材が焦げ付かないように転がしながら煮詰める調理法。里芋の煮っころがしが思い浮かぶだろう。
炒め煮、揚げ煮は、食材を油で炒めたり揚げたりしてから煮るので、余計な水分が抜けてうま味が凝縮され、味が染み込みやすい。炒め煮は筑前煮、揚げ煮はナスの和蘭(オランダ)煮が代表例だ。
さて、冒頭の煮しめ。煮汁がなくなるまでじっくり煮しめるから「煮締め」、食材に味が染み込むから「煮染め」という説がある。しっかり味が付いているので傷みにくく、汁気もないので、重箱に入れるおせちに重宝だ。いろいろな食材を一つにするので「家族仲良く」という意味もあり、おせちの定番となったそう。
使う食材にも、縁起物としての意味がある。ニンジンや蒟蒻(こんにゃく)など「ん」がつく食材は「運が付く」と言われる。レンコンは先の見通しがきくとされ、里芋は親芋に子芋がたくさんつくので子孫繁栄の象徴。地中深く根を張るゴボウは、家庭や仕事の安定を、天に向かって成長するタケノコは、子供の健やかな成長や家族の出世を願う食材。
煮物の種類の豊富さや、食材で縁起を担ぐ伝統に、和食の奥深さを感じる。さぁ、縁起物を食べて幸運を呼び込まなきゃ♪ 皆さまにとって幸福で口福な2023年になりますように!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。