前号では、恵方巻、立春大吉豆腐、初午(はつうま)いなりについて述べた。いずれも特定の日にいただくことで、厄を祓(はら)ったり福を招いたりする食べ物。こういったいわゆる「行事食」は、他にもたくさんある。端午(たんご)の節句には、新芽が出るまで古い葉が落ちない柏の葉で包んだ柏餅を食べ、子孫繁栄を願う。運を付ける「ん」が二つ付く食べ物、南瓜(なんぎん)、蓮根(れんこん)、人参、銀杏、金柑(きんかん)、寒天、饂飩(うんどん=うどん)は、冬至の七種(ななくさ)と呼ばれる。
ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食 日本人の伝統的な食文化」の特徴の一つが、正月など年中行事との密接な関わりである。日本人は昔から行事食を大切にしてきたのだ。
その代表選手「おせち料理」には、縁起物がいっぱい。腰が曲がるまで丈夫にと長寿の願いを込めたエビ、子孫繁栄を祈る数の子、穴から先の見通しがきくという蓮根、黄金色が富をもたらすとされる栗金団。
「マメでいるように」の黒豆や「喜ぶ」の昆布は語呂合わせだ。日本には古代から、「言霊(ことだま)信仰」があった。声に出した言葉が現実に影響すると考えられていたのだ。つまり、善(よ)い言葉は吉事を招き、不吉な言葉は凶事をもたらすということ。例えば「めでたい」と音が重なる鯛(たい)は慶事の食材の定番。披露宴の終了時に「御開き」と言うのは「終わる」が忌(い)み言葉だから。
受験シーズン真っただ中の今、験担(げんかつ)ぎの食材やお料理の出番だ。ちなみに「験担ぎ」の語源は江戸時代にはやった逆さ言葉。現代の業界用語「銀座↓ザギン」「寿司(すし)↓シースー」と同じ。「縁起↓ぎえん」がさらに転訛(てんか)し「げん」になり、加持祈祷(かじきとう)などの効果を表す「験」の字が当てられたらしい。
話を戻そう。合格を願う験担ぎの食べ物としてまず思い浮かぶのは、やっぱり豚カツ! 「勝負に勝つ」との語呂合わせだけでなく、「トントン(豚豚)拍子」との意味も。また、既に揚がっているから「これ以上あがらない=緊張しない」ともいわれる。同じく揚げ物の鶏天は、「取り点=点が取れる」として受験生に人気だそう。鶏肉自体、運を取り込むという意味も。
魚では「勝魚」とも書く鰹(かつお)。鰹節は「勝男武士」として古くから縁起物とされて来た。鮭(さけ)も「災いを避ける」とサケの語呂合わせと、川を遡上(そじょう)するたくましさにあやかる意味があり、西京焼きにすればそれこそ「最強」だと言われる。鰻(うなぎ)も「運気がうなぎ上り」で縁起が良いとされている。
他にも、「努力が実を結ぶ」おむすび、「イイ予感」の伊予柑(いよかん)、最後まで諦めず粘り強く勝つ「Never give up!」のネバネバ食材。中でも、切り口が「五角形」のオクラは「合格」に通じるとされる。お弁当にタコさんウインナーを入れる人も多いらしい。勝利者の英語「winner」と、「多幸」のタコの英語「Octopus置くとパス=受かる」の合わせ技だ。志望校に「受カレー!」となると、ややこじつけっぽいが、言葉に励まされるなら悪くない。受験生でなくても、運気アップの食べ物で運を呼び込んじゃえ♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。