【口福のおすそわけ 465】思い出のカイラン 竹内美樹


 30年以上前のお話。初めて香港を訪れる際、知人から「ムチャクチャうまいし、現地でしか食べられないよ!」と勧められたのが「カイラン」という野菜。レストランで注文してみると、確かに見たことがない。小松菜や菜の花みたいだが、やはり違う。やや太めの茎の上の方に葉っぱが付いた美しい緑色のそれは、お皿の上で頭をそろえて整然と並び、オイスターソースが添えられていた。

 口へ運ぶと、カイラン自体のほろ苦さと甘さが同時に押し寄せ、葉はトロッと、茎はコリッとした食感が楽しく、ソースとの相性も最高♪ すっかりトリコとなってしまった筆者、どこへ行ってもメニューにBaby Kailan with Oyster Sauceがあれば、必ずオーダーするようになった。

 でも、日本ではナゼか見かけない。ところが、最近見つけた職場からほど近い町中華の店で「カイランの生姜(しょうが)汁炒め」なるメニューを発見! その「海港美食」という広東料理店は、香港やマカオで食した料理のオンパレードであった。

 広式叉焼(チャーシュー)やローストダック、皮パリパリのローストポークなど、焼物が充実。筆者の大好物、蒸し鶏のネギソースも美味。「白灼蝦〈ゆでエビ〉」も、リーズナブルでうれしい♪ ニンニクやネギ、刻みパプリカ入りの自家製タレで食せば、あぁ口福♪ 香港といえば飲茶だが、点心も色々。「蝦餃〈エビ蒸しギョーザ〉」や焼売(シューマイ)など、つい注文し過ぎちゃう。特筆すべきは、広東料理の代表的調理法土鍋煮込み。牛バラ肉鍋はお肉がトロットロ、骨付き肉土鍋ご飯もパラッとしたご飯に味が染み込んで、超ベリウマだった。

 さて、カイランに話を戻そう。香港では、メニューにほとんどBaby Kailanとあり、まだ若い状態。成長が進むと、根元近くの茎は皮をむかなければならないくらい硬くなるようだ。同店では1本丸ごとでなく斜め切りだったから、ちょっぴり大き目なのだろう。それはそれで、シャキシャキ感がとても美味。アブラナ科でキャベツやブロッコリーの仲間だから、二つの良い所を足したような味わいだ。
 中国では「芥藍菜」と書き、英語ではチャイニーズブロッコリーやチャイニーズケールと呼ばれる。タイ料理にも多く使われているようで、「カナー」と呼ぶらしい。タイ語で炒めるの意味「パッ」をつけ「パッカナー」、つまりカイラン炒めだ。知らなかった!

 いまだ日本食品標準成分表に記載されていないカイラン。国内ではあまり流通していないが、実は栽培に取り組んでいる地域がある。奇遇にも、筆者が観光特使を拝命している高知県だ! 暑さと水に強く、水田の裏作として湿田でも栽培可能なことに着目、2009年から試験栽培を開始。13年には高知市内の学校給食に登場、現在宿毛市では、地域振興作物として栽培を推進している。

 鍋を振る父、接客する母を、可愛いお嬢さんが手伝う中国人家族の同店も、高知県のカイラン栽培も、頑張ってほしいなと願う。食べて応援しなくっちゃ♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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