【口福のおすそわけ 467】笑顔はスパイス 竹内美樹


 先日、久々に友人たちと食事をした。初めて訪れたその店は、そば前、つまり酒とさかなを楽しめるというのがウリだ。呑兵衛かつそば好きの筆者にピッタリ♪ そば屋なら大抵、板わさなんかで一杯やるのが定番だが、この店はツマミ系のメニューが他店に比べて圧倒的に豊富。期待に胸を膨らませつつ、いざ訪問!

 店構えは、そば屋というより小料理屋といった感じでしゃれている。茶室のにじり口とまでは言わないが、わざわざ入り口を小さめに作ってあり、少しかがまないと入れない。茶室同様いったん低い姿勢を取ることで、その先に広がる空間が実際より広く感じられるという効果を狙ったのだろう。

 木の引き戸を開け、通路を進みのれんをくぐって初めて店内に入れる。計算通り、非日常の世界を感じさせる造りだ。大きなデシャップカウンターの向こうが厨房で、テーブル席を挟んで反対側にはカウンター席も。キャパは全16席。厨房の店主とフロアの女将さん、2人で店を回している。実は後にコレが問題になるのだが、この時はまだ分からず、飲み物やそば前をアレコレ注文した。

 まずはそばみそ。上火でしっかり焼き目が付けられ、そばの実とクルミが入っている。おぉ、なかなか丁寧な仕事だ。お次はハモの天ぷら。塩が添えられ、ふんわりと揚がっている。続いて白エビ唐揚げ。期待を裏切らないおいしさ。秀逸だったのが、えてカレイ一夜干し。皮には焦げ目が付いているのに、中はふわっふわ!

 馬刺しは柔らか。4人でシェアしていたので、おろしニンニクとおろしショウガが四つに分けて盛り付けられ、気配りが感じられる。カモあぶり焼き、穴子一夜干し、里芋唐揚げと食べ進み、お酒も進み、いよいよシメのおそばに突入。筆者は「つけとろ」を選択。客席からも外からも見えるように、2カ所窓のあるそば打ち部屋があり、こだわりのそばのはずなのに、ナゼか今一つ。料理は良かったのに、残念。

 設えや料理から、星を狙っているのが分かる。トイレには冷たいおしぼりまで置いてあった。でも、あのサービスでは難しいだろう。調理人1人、接客も1人だから待たされる。それが問題だったのだ。その上、笑顔が1ミリもない。これじゃあ料理の味が半減してしまう。もしかして、それでシメのおそばが味気なく感じられたのか? お会計は明細無しの手書きメモだったが、それまで料亭気取りに思えてしまう。

 せめて「お待たせしました」とニッコリしてくれれば、最後までおいしくいただけたかも? 笑顔は最高のスパイス。気持ちは味覚にも影響を与えるものだ。

 「肉体労働」「頭脳労働」に加え、新たに生まれた概念「感情労働」の筆頭とされるのが接客業。例えば本当は落ち込んでいても、その感情をコントロールし、笑顔で接客する必要がある。大変だが、だからこそ顧客満足が得られるのだ。

 笑顔のある所に幸福が来ると信じている筆者。口福もまた、笑顔なしには成立しないのだと思った。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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