【口福のおすそわけ 469】豆腐百珍~本篇 一の巻~ 竹内美樹


 江戸時代に大ベストセラーとなった『豆腐百珍』。著者は醒狂道人何必醇(せいきょうどうじんかひつじゅん)という文人で、ハッキリしてはいないが料理人ではなかったらしい。どれくらい人気があったかというと、出版された天明2(1782)年の翌年に「豆腐百珍続篇」が、さらにそのまた翌年「豆腐百珍餘録(よろく)」が刊行されたほど。

 その名の通り、豆腐料理ばかりを百種掲載した料理本だが、人々にウケて爆発的に流行したため、この機に乗じた他の作者による「百珍物」ブームが巻きおこった。「卵百珍」と呼ばれる「万宝料理秘密箱前篇」や「鯛(たい)百珍料理秘密箱」「柚珍(ゆうちん)秘密箱」「大根一式料理秘密箱」「甘藷(いも)百珍」「海鰻(はむ)百珍」「蒟蒻(こんにゃく)百珍」などが続々と出版された。今でいえば、社会現象ってヤツだ。

 さて、本題の豆腐百珍、そんなにはやったなら、一体どんな料理が載っているのだろう? イマドキありがたいことに「国立国会図書館デジタルコレクション」というサイトで、当時の原本を閲覧できる。筆者が大学院生時代は、わざわざ足を運ばねばならなかったのに、便利な世の中になったなぁ、と感慨にふけりつつ閲覧。だが悲しいかな、江戸時代の版本を現代語訳していたあの頃のスキルはどこへやら?… というワケで、多少参考にしつつも、再現料理画像も掲載されている新潮社とんぼの本「豆腐百珍」と、漫画家花福こざるさんが百品の調理に挑戦する様子を描いた「豆腐百珍 百番勝負」を入手、参照させていただいた。同様のチャレンジをされている料理研究家やユーチューバーも大勢おられる。豆腐人気、恐るべし!

 いよいよその内容だが、豆腐百珍では豆腐料理を、ありきたりな物からちょっぴり変わった物、そして絶品に至るまで6種に分類して紹介している。まずは、どこの家庭でもよく料理されている「尋常品」。全部で26品目と最も多い。そして、世の人々が皆よく知っているから、調理法は記さずその名のみ記載すると断っている「通品」が10品目。次の「佳品」は尋常品より風味が優れ、または形の奇麗な料理20品目。

 そして、ひと際変わっていて、人々が考え付かない調理法の「奇品」が19品目。その奇品に勝り、形は珍しいがおいしさがイマ
イチな奇品に対し、形も味も備わっている「妙品」が18品目。最高峰の「絶品」は7品目で、美味や珍しい形を超越し、豆腐の真の味を悟るべく絶妙の調味を記した物とある(筆者意訳)。

 百品の一番目は「木の芽田楽」。醴(あまざけ)入り木の芽味噌(みそ)をつけた豆腐田楽だ。当時田楽は人気料理だったらしく、百品中何と14品も登場、中には「海胆(うに)田楽」なんてぜいたくなモノも。江戸時代にそんな料理を食べていたのか?と、原本を確認。「海胆を酒にてよきかげんにとき用ゆ常の田楽の如し」(原文ママ)とあった。しかも「對馬と肥前の平戸より産るうにを最も上品とす」(同)。つまり、その産地までこだわっていたんだ! オドロキ! そんな江戸時代の豆腐料理、次号も続々登場、ご期待あれ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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