【口福のおすそわけ 477】土佐の酢みかん文化 その1・食文化編 竹内美樹


 前号で、宮崎県日向特産「平兵衛酢」をご紹介したが、ご縁あって高知県の観光特使を務めさせていただいている筆者、「土佐の酢みかん文化」に触れずにはいられない。かんきつ王国と呼ばれる同県、ユズ・文旦・直七・餅柚が全国1位のシェアを誇る。中でも「酢みかん」とは香酸かんきつ類のこと。

 そもそも香酸かんきつ類とは、果肉を食すのではなく、果汁の酸味や果皮の香りを楽しむかんきつ類のこと。スダチ・カボス・ユズ・レモンなどのようにポピュラーな物から、沖縄のシークヮーサーや平兵衛酢のように、その土地特有の品種もあり、日本の香酸かんきつ類は約40種類もあるという。

 使い方は、例えば夏なら薄い輪切りのスダチを浮かべた「すだち蕎麦(そば)」。秋はサンマにカボスを絞ったり、マツタケの土瓶蒸しにスダチを添えたり。冬は鍋にポン酢、ふろふき大根の柚子みそ載せ。飲み物なら、ジンライムがいいなぁ~。でも、思い付くのはこれくらい。

 ところが、高知県人に言わせると、そんなもんじゃないらしい。同県で作られる酢みかんは何とおよそ30種類。採れる時期でも「青ユズ」「黄ユズ」みたいにそれぞれ扱いが変わる。さまざまな酢みかんを、季節や食材、料理によって使い分け、楽しむ文化があるのだそう。

 特に旬の酢みかんと魚は相性バッチリで、両者の旬を紹介する「酢みかんカレンダー」なるものまで存在する。例えば1月は、鏡餅に飾られる「ダイダイ」×「清水サバ」。強い酸味が、冬の脂が乗ったサバにピッタリ。実はあの坂本龍馬も、サバの刺身にダイダイ酢をかけるのが大好物だったとか。ちなみに同県名物「皿鉢料理」に欠かせない「鯖(さば)の姿寿司(ずし)」は、郷土料理「土佐寿司」の一つ。約30種類もあり、その多くは酢みかん酢を使うそうだ。

 そして8月は「ぶしゅかん」×「メジカの新子」。メジカとは宗田鰹(かつお)の土佐弁で、新子はその生後1年未満の幼魚だ。取ったその日でないと食べられないといわれるほど鮮度が落ちやすいが、土佐っ子には初秋到来の味として大人気。ぶしゅかんの皮のすりおろしと果汁をタップリかけて食す。ぶしゅかんの正体は次号に譲るとして、こんなふうに酢みかんと魚の組み合わせが12カ月分できちゃうんだからスゴイ!

 どうしてそんなに酢みかん愛が強いのか? ヒミツは、日本原産かんきつの「橘」。絶滅危惧種だが、土佐市の松尾山には200本以上自生し、今も自然増殖が続いているそうで、この群落は国の天然記念物に指定されている。つまり、同県はかんきつ類が生育しやすい気候風土なのだ。だから。庭に生えているのを「そのまま使いゆう」という感覚。また、高温多湿ゆえに食物の保存には気を使うが、酢の殺菌・静菌効果で保存性を高め、生臭みを緩和できる点も、酢みかん文化が発展した背景と考えられる。

 土佐では昔から「酢が効いちゅう」と言うようだが、「気が利いている」という意味の褒め言葉だそうだ。酢が効いたコラムにしたいものだ。次号に続く!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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