【口福のおすそわけ 492】ロングバー 竹内美樹


 前号で落花生について書いていたら、ふと思い出したのが、シンガポールのラッフルズ・ホテル内にある「ロングバー」。このバーが発祥とされるカクテル「シンガポール・スリング」、やっぱり元祖を飲んでみたいと訪れたことがあった。店に足を踏み入れると、足下で何かがジャリッと音を立てた。その正体こそ、落花生の殻! 知ってはいたものの、どの辺の席に通されるかなぁ? なんて前だけ見て歩き出した途端、音とともに落花生の殻を踏み潰した感触が足に伝わり、ものすごくビックリした。

 国内にガムを持ち込んだだけで罰金、路上でのポイ捨ても法律で禁じられているシンガポール。なのにロングバーでは、ナゼか人目をはばからずにポイポイできちゃうのだ。テーブルやバーカウンターの上に置かれた麻袋入りの落花生が食べ放題になっていて、客は皆お酒を楽しみながら落花生をつまみ、殻を床に落としていく。閉店後に片付けるそうなので、開店直後は床がきれいになっているだろうから、落とすのも勇気が要りそうだ。

 世界中から観光客が押し寄せ、いつも行列ができているが、筆者は並ばずに済んだ。注文したのは当然シンガポール・スリング♪ 赤道直下、熱帯雨林気候の暑さと湿気の多さからか、おいしくはあったが、呑兵衛にはちと甘めであった。

 シンガポール・スリング(Singapore Sling)という名前は、発祥地のシンガポールと、「飲み込む」を表すドイツ語Schlingenに由来するそうだ。誕生は1915年。当時、女性が公の場でお酒を飲むのはNGとされていたというから、超オドロキ! 女性たちが世間体を気にせずお酒を嗜(たしな)めるようにと、ニャン・トン・ブーンというバーテンダーが考案したとされ、ピンク色で可愛らしく、見た目はフルーツジュースのよう。この色は、チェリー・リキュールと、ザクロ果汁から作られるグレナデン・シロップによるものだとか。

 レシピはいくつかあり、今のラッフルズ・スタイルになったのは、ロングバーができた1960年代といわれる。パイナップルジュースが入っていて飲みやすいが、ジンベースでキュラソーやベネディクティンなどリキュールも入っているから、アルコール度数は16~18%程度と意外と高め。飲み過ぎるとヤバイヤツだ。でも一杯39シンガポールドルってことは、10%のサービス料や、今年9%になったGST(税金)を入れると、1ドル110円換算で何と5千円以上! そんなにたくさんは飲めない。

 コロニアル様式の美しいこのホテルは、イギリス植民地時代の1887年開業。ちなみに、筆者も宿泊したことがあるが、宿泊者はウエルカムドリンクとしてシンガポール・スリングをいただけるのがうれしい♪ 落花生から想起したロングバー、その後改装し、一度に最大18杯ものシンガポール・スリングを作れるシェイカーも装備したそう。でも、相変わらず落花生の殻が散らかっているらしい。また行ってみたいな!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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