【口福のおすそわけ 510】江戸の屋台めしその2 竹内美樹


 江戸時代に、ナゼ屋台が流行したのか? 前号の続き。屋台めしは、今風に言えば立ち食いのファストフード。コレが、せっかちな江戸っ子にウケたようだ。屋台めしの定番「握りずし」も、気の短い江戸っ子が、できるだけ早く食べたくて考案したのはご承知だろう。日本におけるすしの起源は、奈良時代から作られてきた「ふなずし」に代表される「なれずし」。ご飯と漬け込み、乳酸発酵させ、少なくとも半年以上たたないと食べられない。ご飯は漬け床の材料であって、取り除いて食す。保存が目的の調理法だった。

 すしの歴史についての詳細は別の機会に譲るとして、より漬け込み時間が短くご飯も食せるようになった「生なれずし」、一晩~数時間で食べられる押しずしなど「早ずし」を経て、江戸で「にぎりずし」が登場。東京湾で取れた江戸前の魚介類と酢飯を目の前で握ってもらい、スグに食べられるというスピード感が江戸っ子気質と見事に合致、大ヒットとなった。

 屋台の中で特に人気があったのが「江戸の四大屋台めし」といわれる、すし・てんぷら・そば・ウナギであろう。いずれも江戸時代に完成したとされる料理だ。そのヒミツは、実はしょうゆにある。江戸幕府が開かれる前、文化の中心だった上方から多くの物資が江戸に送られ、「下り物」と呼ばれた。しょうゆも例外ではなく、江戸時代中期までは上方の薄口しょうゆが主流だった。その後関東でも野田と銚子でしょうゆ造りが盛んになり、上方に依存しなくなって、生産量も逆転する。

 関東で造られたのは濃口しょうゆ。前回も述べたが江戸は男性の人口比率が高く、町を切り開き整備する職人が多かった。肉体労働で汗を流す彼らは濃いめの味付けを好んだとされる。薄口の方が色は上品でも実際の塩分濃度は高いのだが、色が濃く香りが強く、しっかりした味わいの濃口しょうゆの方が江戸の人々に好まれたのだろう。
 四大屋台めしは全て濃口しょうゆが必要だ。すしは付けしょうゆや、ネタをヅケにするしょうゆがなければ成立しない。煮アナゴや煮ハマグリに塗るツメだって、しょうゆとみりん、砂糖でできている。同様に、天つゆもそばつゆも、ウナギのタレも、濃口しょうゆがないとお話にならない。

 我田引水だが、筆者が役員を務める弁当製造販売会社「神田明神下みやび」では、8月半ばまでの期間限定で、東京駅改札内にある「エキュート東京」に出店中。売り場は何と、通常の販売ケースの3倍くらい! コンセプト、どうしよう?と悩んでいたとき思い出したのが、前号でご紹介した歌川広重の「東都名所高輪廿六夜待遊興之図」だった。「江戸の屋台めし」というコンセプトなら、いろいろ売り出せる! そこで、江戸東京博物館所蔵の同画データをお借りし、店頭背景のパネルに使用させていただいた。現在お弁当のほか、てんぷらやいなりずしを販売中。次はそばもリリース予定だ。

 おっと、話がそれてしまった。お江戸の暮らしについて、次号もお楽しみに♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒