【口福のおすそわけ 522】幕の内弁当 竹内美樹


 筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社では、デパ地下や東京駅・歌舞伎座などで販売している通常商品以外に、オリジナルの特別弁当も受注する。その際重要なのが、どんな機会にどなたが召し上がるか。学会や会議、学校の謝恩会、敬老の日の会合など用途はさまざま。それぞれのニーズに合ったお弁当が必要だ。

 お客さまからのご要望で多いのが「幕の内タイプのお弁当」というもの。集まる人数が多いほど、好みも多様になるので、「肉弁当」や「魚弁当」などと食材を限定してしまうと、食べられない人がいる場合も。その点、ご飯といろいろなおかずをバランス良く盛り込んだ「幕の内弁当」なら、リスクが軽減されるワケだ。

 お弁当の定番とも言える幕の内弁当、その由来については諸説あるが、江戸時代の芝居にルーツがあるようだ。当時の芝居興行は、明け六ツ(午前6時ごろ)から、暮七ツ半(午後5時ごろ)まで行われていたという。芝居見物は1日がかりの大イベントだったのだ。

 これだけ長時間になれば、当然途中で食事もする。「幕の内」とは、芝居の休憩時間である幕間に、下りた幕の内側で役者が食べていたことに由来するという説や、観客が幕間に食べていたからという説が有力。役者だってお腹は空くし、観客にとっては食べたり飲んだりするのも娯楽の一つ。どちらもアリだろう。

 弁当を提供していた芝居茶屋のシステムなど詳細はさておき、江戸時代の風俗誌『守貞謾稿(もりさだまんこう)』に、当時の幕の内弁当について記されている。中身は、軽く焼いた握り飯10個・玉子焼き・かまぼこ・煮物(かんぴょう・里芋・コンニャク・焼き豆腐)。これを6寸(約18センチ角)の重箱に詰めた物だったようだ。

 やたらとご飯が多いが、当時は成人男性で1日5合もの白米を食べていたとか! 握りずしも現在の2~3倍大きかったというから、さもありなん。現在幕の内弁当と呼ばれる商品のご飯は大抵俵型だが、かつての握り飯の名残だ。

 ちなみに、江戸時代、卵1個は20文で、かけそば1杯16文より高かった。玉子焼き入りの幕の内弁当は、高級品だったと分かる。

 よく、松花堂弁当と混同されるが、その名は江戸時代の僧侶松花堂昭乗が「四つ切り箱」を好んだことに由来する。中が十字に仕切られており、それぞれの升の中に小鉢を入れれば、温かい料理や冷たい料理、汁気のあるものなど、異なる料理を盛り込める。昭和に入ってから茶懐石で使われるようになったという。

 幕の内弁当に話を戻そう。我田引水だが、「神田明神下みやび」では先月新シリーズの商品をリリースした。女性の両手のひらに載るくらいの、ミニサイズのお弁当「ちび弁」(商標登録済み)だ。7アイテム発売したが、そのメインとなるのが「東京ちび弁幕の内」。25種類もの食材を盛り込んだ自信作で、チビでもあれこれ食べられると人気だ。…って、自分が世に出した商品ってわが子のようにかわいくて、つい宣伝しちゃった♪ お許しを!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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