親しくさせていただいている、新潟県長岡市の株式会社野上米穀野上会長から、とても見事な柿をいただいた。オレンジ色につやつやと輝き、手に取ると大きくて重たい。ころんと丸い形ではなく、平らで四角いと言った方が合っている感じ。
箱には「トキと世界遺産の島 佐渡 新潟県佐渡産 おけさ柿」と記されていた。なるほど、「佐渡おけさ」がその名の由来なんだと分かる。調べてみると、品種としては「平核無(ひらたねなし)」と「刀根早生(とねわせ)」の2種類。平核無の原木は、新潟市秋葉区古田(旧新津市)に現存し、推定樹齢は370年以上にも関わらず、今なお実をつけ続けているそうで、昭和37年に新潟県文化財に指定されている。刀根早生は、平核無の突然変異種だ。
新潟には「越後七不思議」として語り継がれている、鎌倉時代の高僧親鸞聖人にまつわる伝説がある。平核無も、種がない柿が珍しいことから、8番目に不思議だとして「八珍柿(はっちんがき)」とも呼ばれるそうだ。佐渡では昭和初期に羽茂(はもち)地区で産地化を進め、名産品となったといわれているが、種なし柿だから、接ぎ木で育てるしかない。実は、おけさ柿が誕生するまでには壮絶な物語があったようだ。
時は昭和6年にさかのぼる。県の指導で梨を生産しようという話が持ち上がっていた。だが、「おけさ柿の父」と呼ばれる農業技術員杉田清氏が待ったをかけた。当時既にブランド柿として人気だった山形県産「庄内柿」の原木が新津市で発見されたと知り、新潟原産の柿なら佐渡での栽培に向いているだろうと考えたようだ。翌昭和7年に、山形県から2千本の苗木と1万5千本の接ぎ木用穂木を導入、羽茂の在来の柿を土台に試行錯誤した結果、栽培が成功したのだという。やっと出荷が見込めると喜んだのも束の間、今度は太平洋戦争が勃発。受難の時期もあったが、戦後甘いものが不足して人気を呼び、昭和26年に「おけさ柿」というブランドで市場進出を果たしたのだ。
今では大玉で高級というイメージが定着したおけさ柿、本来渋柿なのだが、炭酸ガスとアルコールを併用する方法で渋を抜く。水溶性の渋成分が不溶性に変化するため、渋みを感じなくなるそうで、渋成分つまりポリフェノール自体は残っているのだそう。おけさ柿1個でレモン1個分のビタミンCが取れ、ポリフェノールは赤ワインの10倍も含まれているという。この渋成分、シブオールというタンニンの1種。ちょっと分かりづらいが、タンニン自体がポリフェノールの1種なのだ。シブオールには抗ウイルス作用があり、免疫力アップが期待できるそう。昔から「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるゆえんだ。また、血液中のアルコールを分解する作用もあるらしい。たくさん食べなくちゃ!
…というワケで、いざ、実食♪ ジューシーでなめらか、ムチャクチャ甘い! 当たり前だが、種がないから食べやすい。もっと熟したら、スプーンで食べても美味だろう。楽しみぃ~♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
※観光経済新聞11月18日号掲載コラム