【口福のおすそわけ 533】アイガモ水稲同時作~前編~ 竹内美樹


 福島県西白河郡中島村で、筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社のお米を作っていただいている野木冨士男さんから、ぜひ一度試してほしいと荷物が届いた。中身はアイガモの肉。実はコレ、ただのアイガモじゃなかった!

 野木さんの生産者仲間の皆さまは、お米を育てるためにさまざまな工夫をされている。野木さんご自身は、植物が根から分泌する有機酸を利用して土壌を改善し、植物が本来持つ生命力を発揮できる環境を作り出す「植酸栽培」で、減農薬特別栽培米を作られている。近くの藤田利春さんの田んぼでは、今サスティナブルな農法として注目されている「アイガモ水稲同時作」を採用。家禽(かきん)の飼育と稲作という、畜産農業と耕種農業を同時に行う耕畜融合型の農法だ。野生のマガモとアヒルを交配させたアイガモを水田で放し飼いにすることで、農薬や除草剤を使わなくても済むと聞いたことがあるが、どうしてなのか?

 さて、まずはこの農法の目的について。アイガモを水田に放つことで、アイガモが雑草や害虫を食べてくれる上、泳ぎ回ることによって地表に生えた小さな雑草を脚で浮き上がらせ、雑草が根付くのを防いでくれる。また、泳ぐ時に水田の泥水をかき回し水が濁るため、雑草の光合成を妨げるだけでなく、水田内に酸素が補給され、稲の根を丈夫にするそうだ。

 さらに、稲の根元をくちばしでつつくため、株の張りが良くなるという。栽培中に作物の周囲の表土を浅く耕す、中耕の役割を果たすのだ。アイガモのフンは肥料になる。そして米くずや、通常なら廃棄されてしまうキズ物の野菜や果物をエサとして与えるため、農作物のロスを減らせる。除草剤や殺虫剤を使わずに済むだけじゃないんだ!

 現地の詳しい事情を、野木さんに伺った。毎年5月中旬~下旬ごろ、アイガモのヒナを田んぼに放すという。黄色から茶色っぽく色が変わりかけたくらいの、小さいヒナだそう。25年ほど前から、村内の幼稚園児による放鳥体験を行っている。「アイガモや自然に触れて、さまざまな感性を育ててほしい」という思いからスタートし、今年は藤田さんの水田124アールにアイガモ180羽を放鳥したそうだ。

 2カ月程度田んぼで放飼し、活躍したアイガモは、成長して大きくなると、稲穂を食べてしまったり、倒伏させたりする恐れがあるため、小屋に移して肥育するという。アイガモは人間によって作られた野生には存在しない雑種なので、自然に帰すことは固く禁じられており、シーズンが終了すると食用になる。だから、稲作だけでなく、畜産の意味も持つのだ。そして今回いただいたアイガモこそ、その食用肉であった。

 藤田さんが所属する「しらかわ地区稲作部会あいがも班」は、環境保全型農業大会で優秀賞の受賞歴があり、「ふくしま県GAP認証」も取得している。環境に優しく持続可能な農法なのだが、ご苦労も多いという。続きは次号で!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。


(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)

 
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