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本連載536回で、赤と白のフランス料理について掘り下げた際、白い煮込み料理の一つとして「ブランケット・ド・プーレ」を挙げ、小麦粉とバターのルウを入れるため、日本のホワイトシチューに近い感覚だと述べた。現在ではクリームシチューと呼ぶ方がポピュラーであろうこの料理、実は日本発祥なのだ。
まずは、シチューって? 「世界大百科事典」によると「洋風の煮込料理。英語のstewのなまりで、フランス語のラグーragoutに該当する。肉、魚貝、野菜などをたっぷりの煮汁で煮込むもので、大別してブラウンシチューとホワイトシチューに分けられる」とある。つまり、その意味ではホワイトシチューだ。
この白いシチュー、本来はバターで小麦粉を炒めながら練ったルウを、少しずつ牛乳でのばしてクリーム状にした「ベシャメルソース」を使用する。具材を煮て軟らかくなったら、ベシャメルソースを加え、スープや牛乳でのばして仕上げるのだ。けれど、クリームコロッケやグラタンにも使われるこのベシャメルソース、焦げやすい上小麦粉がダマになりやすく、案外難しいとされている。
筆者の作り方はもっと雑。バターで玉ネギを炒めたところに小麦粉を振り入れ、粉っぽさが無くなるまで炒めたら、少しずつ牛乳を入れてのばす楽チンな方法。とろみが足りない時は、バターと小麦粉を同量練り合わせたブールマニエを投入すれば解決!
そもそも日本では、牛乳を飲む習慣がなく、牛乳は薬だと考えられていた。
明治天皇が1日2回牛乳を飲まれていると新聞や雑誌で報じられ、ようやく牛乳飲用が広まり始めたといわれる。牛乳を使った「白シチュー」なるものが登場したのは、昭和に入ってから。
戦後の食糧難の時代、昭和21年から27年まで米国から送られていた支援物資の中に、脱脂粉乳が含まれていた。昭和22年から始められた学校給食で、カルシウム不足を補うため、脱脂粉乳が盛んに使われたそうだが、そのメニューの一つが「白シチュー」だったのだ。その後次第に脱脂粉乳が牛乳に替わり、現在のホワイトシチューが出来上がったとされる。
昭和41年、ハウス食品から粉末タイプの「シチューミクス」が発売され、給食で人気の白いシチューが家でも簡単に作れると大ヒット。現在は顆粒やルウタイプなど、さまざまな商品が展開されているが、この家庭用白シチューの素が「クリームシチュー」と名乗ったことで、ホワイトよりクリームが一般的になったのではないだろうか?
白いシチューは、日本で独自に進化を遂げた料理であった。しかも、あまり外では食べない。ゆえに各家庭のスタイルがあって、時折ネット論争のネタになる。合わせるのはパンかご飯か? ご飯派なら、かけるか分けるか? ハウス食品の調べでは、ご飯派が多いらしい。かけるか分けるかは、世代や地域によって違うという。いずれにせよ、ホッとする口福の味だ♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
(観光経済新聞2025年2月3日号掲載コラム)