
先日、テレビの画面にイカの生き造りが映し出されたのが目に入った。また食べたいなぁ、なんて思いながら、ふと考えた。生きたイカは一匹二匹と数えるのに、食べ物になるとナゼ一杯二杯になるの?
調べてみると諸説あるが、最も有力なのは「杯(はい)」という漢字に由来するという説。優勝カップがカップ型なのは、古くから勝者に酒の入った杯(さかずき)が授けられる慣習の名残らしいが、この杯のごとく胴体に液体を注ぎ込めるような形だから、イカは杯で数えるようになったとか。確かに、イカ飯が作れるのだから、容器としても使えるワケだ。
タコもイカ同様杯で数えるが、甲羅が丸く杯になるカニも杯を使う。甲羅酒だ♪ アワビの殻も器になるので、杯で数える。穴があるので漏れそうだが、使おうと思えば使えるかもしれない。面白いことに、「杯」は船の数え方でもあるそうだ。船にお酒を入れて飲むなんてどんだけ~!って、かなりの巨人だ。
これら「匹」や「杯」は助数詞と呼ばれるが、日本語には約500種類の助数詞があるといわれる。世界でも類を見ない多さ。エビも生物か食材かで数え方が違う。生きたエビの助数詞は匹だが、食材になると尾や本を使う。エビフライなら、本がしっくりくるだろう。魚は泳いでいれば匹だが、水揚げされると尾を使い、細長いサンマや太刀魚は本で数えるが、平らなカレイやヒラメは枚を使う。
たらこや筋子など魚卵を数える助数詞は「腹(はら)」だが、左右の卵巣が対になった状態で「ひと腹」だ。1本になっている場合、本来なら「片腹」と言う。ボラの卵巣で作るカラスミも、対で一腹だ。じゃあ、数の子は?
子孫繁栄を象徴する縁起物としておせち料理に入っている数の子は、どう見ても1本、つまり片腹だ。でも、縁起物なのに片腹(かたはら)というのは、いささか問題だ。そこでキレイな数の子の形が鳥の羽に似ている事から「一本羽(いっぽんばね)」と呼ぶようになり、一羽(ひとはね)、二羽(ふたはね)と数えるようになったとされる。
ちなみに、白子は卵巣ではなく精巣だが、魚のお腹に入っていたということで1腹と数えるのだそう。
麺類の数え方もさまざま。ラーメンの場合、丼に入れば一杯二杯だが、ゆでる前の生麺は「玉」だ。さらに注文時店員が「ラーメン一丁!」と厨房に声を掛けるが、コレは「一丁やったるか!」などという時に使う「一丁」と同じで、景気づけに使われる数え方だという。
食べ物ではないが、食べる時に必要なお箸。2本で一膳と数えるが、菜箸や火箸は口に運ぶためのモノではないので膳とは言わず、「一揃(ひとそろ)い」「ひと組」と言う。割り箸は、割る前のくっついた状態なら「一膳」でも「一本」でも良いとか。
筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社では、取引先によって1個や一食など単位が違う。折箱入りの折詰弁当は一折(ひとおり)と数える。「手土産の菓子折」みたいでちょっと高級そうな感じ。助数詞でイメージが変わるなら、積極的に使おう!と思う筆者であった。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
(観光経済新聞2025年3月3日号掲載コラム)