【口福のおすそわけ 544】ポテトサラダとマヨネーズ~前編~ 竹内美樹


 「ポテトサラダ論争」ってご存じだろうか? キッカケは、2020年7月、当時のツイッターに投稿された、みつばちさんのつぶやき。以下、原文。

 「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」の声に驚いて振り向くと、惣菜コーナーで高齢の男性と、幼児連れの女性。男性はサッサと立ち去ったけど、女性は惣菜パックを手にしてうつむいたまま。私はとっさに娘を連れて、女性の目の前でポテトサラダを買った。2パックも買った。大丈夫ですよと念じながら。

 このツイートには33万の「いいね」がついて11万リツイートされた。その後も拡散され、多くのメディアが取り上げた。確かに、ポテトサラダって結構作るのが面倒だ。恐らくこの高齢男性は、作り方をご存じなかったのだろう。

 まずはジャガイモをゆで、熱いうちにガマンしつつ皮をむいてマッシュする。玉ネギは薄切り、ニンジンはいちょう切りにしてそれぞれ加熱。きゅうりは薄切りにして塩もみ。ハムは短冊切りに。そしてわが家の場合はゆで卵マストなので、卵をゆでて殻をむくという作業も必要だ。

 筆者は割と半熟にゆでて丸ごと投入、フォークでテキトーに潰してしまうが、固ゆで卵を白身と黄身に分け、白身は細かく刻むというレシピも。最後に、それら全てをマヨネーズで和えるワケだ。どうでしょう? 筆者はよく妹に作ってもらうが、自分では買う派かもしれない。販売されているのは、それだけニーズがあるということだ。

 母親とはこうあるべきという理想論の押し付けにムカついた世の女性たちは多かっただろうが、反響の大きさは、ポテサラが国民食と言えるくらい人気を得た証拠ではないか?

 その歴史を探ると、ルーツはロシア説が有力。モスクワにあったレストラン「エルミタージュ」のシェフ、リュシアン・オリヴィエが、19世紀に考案したオリヴィエ・サラダがルーツとする説だ。彼はフランスとベルギーの血を受け継ぐロシア人だったそうだが、ロシアが世界一のマヨネーズ消費国であることと無縁ではないだろう。日本人よりロシア人の方がずっとマヨラーなのだ。

 フランスにも、野菜をさいの目に切りそろえて混ぜ合わせるマセドアン(仏語で角切りの意)サラダが存在するが、こちらは本来ヴィネグレットソース和えでマヨネーズ和えではない。

 ポテトサラダに欠かせないマヨネーズは、スペインのメノルカ島生まれらしい。18世紀半ば、当時イギリス領だったこの島を攻撃したフランス軍の指揮官リシュリュー公爵が、港町マオンの料理屋で出会ったソースに魅了され、「マオンのソース」として伝えたのが「マオンネーズ」で、マヨネーズの起源だという説が有力である。

 いずれにせよ、マッシュしたポテトのサラダは、日本で独自に進化したモノらしい。その歴史とは?

 ちょうど百年前、1925年3月に発売された日本初のマヨネーズとは? 次号に続く。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。


(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)

 
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