スーパーシティ特区構想に手を挙げたことで、さまざまな技術やノウハウを持つ人が訪れるようになった、すさみ町。同町の魅力に触れ、訪問者から滞在者、そして移住者となった人が増えている。海を望む水色のかわいらしい建物「SUSAMI TRAVEL COUNTER FRONT110」。新たな観光拠点として昨年7月にオープンした施設だが、これを構想したのも一人の移住者だ。
すさみの魅力は地域愛と人間愛
「すさみの魅力は、地域愛と人間愛にあふれているところ」と話すのは、源口葉月氏。FRONT110の立案者で、現在は「合同会社シェアローカル」を起業し、すさみを拠点に地域の豊かさや良さを発信する事業などを手がける。源口氏は大阪とすさみの2拠点生活を経て、1年半前に町内の古民家に移住した。
実は源口氏、初めて訪れたすさみで、鎖骨を骨折。その時の町の人のやさしさ、温かさに感銘を受けたという。その後、FRONT110の整備に携わる間に、漁師体験をしたり、農家でレタス定植を手伝ったり、紀州備長炭の炭焼き職人に話を聞いたり、40代以上の町民と交流し、すさみでの日々の暮らしや生業に多く触れた。「『暮らし』を体験したことで、自分がすさみで暮らすことも自然な流れだった」と源口氏。
コンパクトさがスピード感生む
生業体験などで同氏と町民との間を取り持ったのが、町議会議員ですさみ町観光協会長でもある中嶋淳氏だ。中嶋氏は町を引っ張ってきた親世代がどんどん元気がなくなっていくのを目の当たりにして、好きな町を盛り上げようと7年前から町議を務める。500軒ほど散在する空き家対策と移住者のあっせんにも取り組む同氏は、以前から源口氏の発想力などに注目。早くから町長はじめ多くのキーマンに引き合わせ、取り組みを後押しした。「大きな実績もない自分に、『やってみろよ』とフィールドを提供してくれるこの町の懐の深さ、すぐに町長に会えるコンパクトなコミュニティのスピード感はすごい」と源口氏は振り返る。
FRONT110のロゴ。すさみの自然とホテルをイメージ、デザイン化した。名称内の「110」は、同施設が元警察署だったことから「フロントナンバー」として名付けた
FRONT110では現在、キャンプフィールドやアクティビティの受け付けやコワーキングスペースの運営、企業研修のプランニングなどを行っている。すさみ町全体を一つの宿とすると、まさにそのフロントの役割を担う存在だ。
3月末には、在京の大手企業の社員による、ワーケーションのトライアルを行った。4日間の滞在中には、テント設営ワークなどを通したチームビルディングや、漁船クルーズ、移住者が運営するゲストハウスへの滞在などを行った。いずれのプログラムでも、源口氏だけでなく地元の人との交流を重視した。中嶋氏はすさみ町民の距離感を「よけいなおせっかいに近い(笑い)」と言うが、源口氏は町民の外からの人とのかかわり方を、「踏み込むところと踏み込まないところの距離感がちょうどいい。心地よい触れ合い感がある」と評する。実際、今回のトライアルの参加者からも「すさみの人の温かさに感動した」との感想が挙がったという。
暮らし体験し良さ感じて
同町では今年度、すさみならではのコンテンツを用意し、ワーケーションプログラムや、副業インターンの受け入れなどを積極的に進める。源口氏は「町外の人や企業と町民を丁寧につなぎたい。町の皆さんと協力してお試し移住の拠点なども整え、自分のようにすさみの暮らしを体感し、すさみの人とつながることで、町の良さを感じてもらいたい」と語った。
FRONT110の前に立つ、中嶋氏(左)と源口氏