【国内OTAトップ座談会】じゃらん × 楽天 × 一休 × JTB 


勢い増す外資に対抗 ”顧客囲い込み”で足元固める

 日本人向けのきめ細かいサービスメニューで業績を伸ばし続けてきた国内OTA。各社はいま、従来のポイント付与に加えてステージ制のロイヤリティプログラムを導入し、顧客の囲い込みに躍起だ。かつては海外個人旅行の予約サイトに過ぎないと思われていた外資OTAが、日本人の国内宿泊予約市場で年々存在感を増してきているからだ。競争は激化している。国内OTA3社のトップとJTBのWeb販売部長に各社の現状と方向性を聞いた。(東京・ロイヤルパークホテルで)

◎出席者

宮本賢一郎氏(リクルートライフスタイル 執行役員 旅行領域担当)

髙野芳行氏(楽天 執行役員 トラベル事業 事業長

榊 淳氏(一休 代表取締役社長)

盛崎宏行氏(JTB 執行役員 Web販売部長)

司会=本社企画推進部長 江口英一

 

19年の市場と各社の状況

 ――2019年はどうだったか。

宮本氏

 宮本 18年に「360度トラベルパートナー」というコンセプトで日本国内の総旅行回数を増加させることにチャレンジすると発表した。その一環でいくつかの新しい取り組みを行った。

 一つは「ノーショウ補償」。19年4月1日のチェックアウト分から無連絡のキャンセル料を補償するというものだ。また「トリップAIコンシェルジュ」の外国語応答を12月から始めた。AI(人工知能)を活用したチャット形式のお問い合わせ対応サービスで、日本語に加えて、英語、中国語の簡体字・繁体字、韓国語で応答できるようにした。消費税増に伴って開始されたキャッシュレス決済時の消費者還元事業にも参加している。

 カスタマー向けには、会員プログラム「じゃらんステージプログラム」のお試し版の提供を開始。20年の本格導入に向けて、サービスの検証を現在行っている。

 ――若者の旅行需要を喚起する「マジ☆部」シリーズは。

 宮本 堅調だった。雪マジ、お湯マジ、ゴルマジ、海マジ、Jマジ。リフト券、入浴料、ゴルフプレー代、マリンアクティビティ、Jリーグ観戦が若者は無料になるというものだが、付帯需要が必ず発生する。また雪マジを例にあげると、雪マジ!20の約90%の会員は有料でゲレンデを訪れている。

 

 ――楽天トラベルの19年は。

髙野氏

 髙野 19年は堅調に伸びた。年間の予約泊数は過去最高を記録し、通年でプラス成長を達成することができた。特に前半は最大10連休のゴールデンウイーク(GW)が想定以上に伸びて2桁成長となり、後半は自然災害がありつつも立て直すことができた。台風被害で苦しんでいらっしゃる宿泊施設は多いので、11、12月と大きなキャンペーンを四つ展開した。東日本、千葉、箱根、北陸で需要回復に努めた。

 ダイナミックパッケージも好調だった。06年にANAと開始し、その後JALとも始めたが、累計利用者数は1千万人を超えた。シンプルなパッケージ旅行は、オンラインの利便性を生かせると思う。

 地方自治体との連携も強化。4月には鳥取県と包括連携協定を締結した。旅行分野でのサポートだけでなく、楽天グループの消費行動分析データを使って、マーケティングの強化や、キャッシュレス強化などさまざまなお手伝いをさせていただいている。

 

 ――19年の一休は。

榊氏

 榊 楽天トラベルの1億泊には遠く及ばないが、一休が焦点を絞っているラグジュアリー市場は引き続き活況だ。そのことを端的に示すのが単価で、一休の平均販売単価を見ると12年が底で、その後は右肩上がり。19年も単価は上昇している。

 12年というのは東日本大震災の翌年だ。現在の平均単価は当時の1.5倍になっている。つまり当時5万円だったホテル客室が今は7~8万円で売られているということだ。ラグジュアリーカテゴリーの宿泊施設数がここ7、8年で急増したわけではないので、既存施設の設定単価が上がったことになる。

 19年はオリンピックイヤーの前年ということもあり、オークラ東京、ハレクラニ沖縄などいくつかの高級宿泊施設が新規開業したのも私たちには追い風となった。一休ユーザーは新しいラグジュアリー施設が「大好物」で、「趣味は旅館」「趣味はホテル」という方が数多くいらっしゃる。そういった方々にご提供できる「非日常の空間」が増えることはビジネス上のプラスだ。

 

 ――19年のJTBのウェブ販売事業はどうだったか。

盛崎氏

 盛崎 5月のGW、9月のシルバーウイークなどの連休を軸にしっかりと需要を獲得できた。特にGWの国内旅行は前年比40%増、海外旅行は同98%増と好調だった。JTBグループ全体としては、日本で開催されたラグビーW杯において、日本代表のオフィシャルサポーターとして大会の成功に貢献することができたし、ビジネス的にも訪日インバウンドを中心に需要を取り込むことができた。

 ――台風15号、19号後の風評被害への対応は。

 盛崎 首都圏、北関東、中部でJTB独自の「復興支援プラン」を早期に発表し、取り組んでいる。首里城復旧・復興支援プランの発売も11月15日より開始している。

 ――国内旅行好調の要因は。

 盛崎 18年と比較して、アプローチつきツアーの販売が好調に推移した。ダイナミックパッケージ(DP)も売れている。

 ――DPではないパッケージの競争力はどこにあるのか。

 盛崎 一番の要因は価格的に競争力があるということ。また、ユーザーはさまざまな旅行商品を比較検討した上で選択するわけだが、ラインアップやJTBならではの特典も差別化につながり、結果として支持をいただいたと考えている。

 

20年の展望と事業計画

 ――20年の取り組みは。

 宮本 総旅行回数を増やす取り組みを継続していく。その一つとして「じゃらんステージプログラム」を本格始動し、顧客基盤のさらなる強化に取り組む。利用額に応じて、ゴールド、シルバー、ブロンズ、レギュラーの会員ランク付けを行い、ランクに応じたさまざまな特典をつける予定だ。

 ――顧客囲い込みのためのロイヤリティプログラムは楽天トラベルが最初に始め、一休が追随した。

 髙野 楽天トラベルは、ダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、シルバー、レギュラーの5段階。

 榊 一休は、ダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、レギュラーの4段階だ。

 ――JTBは。

 盛崎 プラチナ、ゴールド、シルバーの3段階だ。ステージごとにさまざまな特典やサービスを用意している。例えば最上位のプラチナステージでは、来店時の優先受け付けや希少性が高い独自商品、専用商品をご案内している。

 宮本 もう一つの大きなトピックは、1990年に創刊した国内旅行情報誌「じゃらん」が創刊30周年を迎えること。特別なプロモーションを展開する計画だ。

 ――新聞社が言うのも変だが、紙媒体は売れない時代だ。じゃらんは売れているのか

 宮本 一定数売れている。「北海道じゃらん」「九州じゃらん」など、旅行需要が域内で完結する場合が多い地域では、特にご支持をいただいている。創刊30周年を機に、スタッフ一同、一層頑張って国内旅行を盛り上げていきたい。

 

 ――20年の楽天トラベルは。

 髙野 20年も堅調に伸びると考えている。マーケットを俯瞰すると、日本の宿泊予約需要に対するインターネット予約比率はまだ50%未満。まだ伸びしろがある。インターネット旅行販売は今後も伸びると読んでいる。

 オリンピック・パラリンピックについては、開催期間が1年間のうち1カ月程度に過ぎない。終了後もいかに継続して旅行需要と宿泊施設を盛り上げていくかが大事だ。楽天トラベルならではの施策を検討している。

 JAL・ANAが新運賃制度を導入することも、オンライン旅行サービスには追い風になる。オンライン予約の活用が一気に進むはずだ。

 ラインアップも増やしていきたい。民泊サイトを運営する楽天ライフルステイが持つ事業と在庫をフル連携させて、多様化する旅行需要に対応していきたい。

 

 ――20年の一休は。

 榊 一休.comのサービス開始は2000年なので、20周年を迎える。オリンピックの後で景気が少し緩むのではないかという臆測も出ているようだが、今まで通り、国内客に向けて高級宿泊施設をご紹介していく。ラグジュアリーマーケットを元気にすることを続けていく。

 五輪を控え、インバウンド需要も増えていて、数多くのホテルが新規開業しているわけだが、低単価の宿泊特化型ホテルからオープンしてきた。そして、建築に時間がかかる高級宿泊施設の開業がこれからピークを迎える。パークハイアットニセコ、ふふ奈良、JWマリオットホテル奈良、エースホテル京都、ザ・リッツカールトン日光、カハラリゾート横浜、HOTEL MITSUI KYOTOなどがそろってくる。このカテゴリーを一生懸命販売させていただきたい。

 一休のミッションは「心に贅沢(ぜいたく)をさせよう」。非日常時間を過ごすことができるラグジュアリー施設の増加は、20年以降の私たちのビジネス展開にとって非常に大きな意味を持つ。

 

 ――20年のJTBは。

 盛崎 JTBホームページをフィールドとして、サイトに来ていただいたお客さまの体験価値を高める取り組みを引き続き強化していく。

 ――昨年も質問したが、JTB公式サイトとるるぶトラベルのサイト統合は行わないのか。

 盛崎 両サイト会員のID統合は18年6月に実施したが、サイトは統合しない。私たちは18年11月にアゴダとの包括的業務提携契約を発表した。アゴダが持つテクノロジーとJTBが持つ国内のネットワークやコンテンツ力を活用して宿泊販売を拡大する取り組みだ。この協業で、るるぶトラベルと訪日インバウンドサイトのJAPANiCANを刷新し、サービスレベルを一気に引き上げる。二つのサイトは、JTBホームページとは別の形で運営していく。詳細については2月ごろ発表できると思う。

 ――JTB公式サイトの強みは何になるのか。

 盛崎 外部調査機関と連携して行った独自調査では「価格だけでは旅行を決めない」という層が50%弱いることが確認できた。「安心感」「信頼感」も大事だと答えている。そのお客さまに対してどのような価値提供ができるのかを研究しているところだ。社内では「CX(カスタマーエクスペリエンス)戦略」と呼んでいる。お客さまの求めている安心感や信頼感に応え、さらにそれを超える価値が提供できるサイトへ進化させる。

 ――JTB店舗と公式サイトとのシナジーは。

 盛崎 お客さまのご希望で自由にチャネルを組み合わせてご利用いただける仕組みになっている。ウェブで申し込んで店舗で支払うことも、店舗で旅行相談をしてウェブで申し込むこともできる。店舗は、JTBのブランド価値にとって重要なアセットだ。リアル店舗で対人コミュニケーションが取れるのは、通常のOTAにはないJTBの強みだと思う。

 

5G対応・公取委問題

 ――間もなく5G時代が訪れる。OTAモバイルサイト、OTAアプリはどのように進化していくのか。

 宮本 通信できるデータ容量が大きくなり、速度も速くなるので、当然リッチコンテンツ化していく。地域にも宿にも見せ方次第でさまざまな可能性が広がっていく。OTAが提供するサービスの質も高まる。

 髙野 表現が多様化することは宿泊業界、旅行業界にとって非常に良いことなので、積極的に取り組んでいく。

 榊 ラグジュアリー施設からの要望が多いので、動画コンテンツにも取り組んでいる。5G時代にリッチコンテンツが力を発揮するのは旅館だと思う。旅館は部屋によって値段も趣も違う。車は試乗できるが、高級旅館は試泊できない。現状はというと、ユーザーはウェブサイトで数枚の旅館の写真を見て、イメージを膨らませて、1泊1人10万円の予約を行っている。例えば、自分のスマホで手軽に各部屋の動画を見て、バーチャル体験できれば、コンバージョン(予約転換率)が上がるのではないだろうか。

 盛崎 宿泊商品もそうだが、国内・海外パッケージツアーの商品紹介で可能性の幅が広がる。現在、サイト流入の65~70%がスマホだ。接点という観点ではスマホの優位性は今後も変わらない。スマホ向けコンテンツのリッチ化は徹底していく。

 

 ――19年4月、楽天トラベル、エクスペディア、ブッキング・ドットコムの3社は独占禁止法(不公正な取引)の疑いで、公正取引委員会の立ち入り検査を受けた。楽天トラベルが宿泊施設と結んだ契約条項に、他のOTAや宿の自社サイトとの「最低同一料金保証」と「同一客数保証」を記載していたことが問題視された。その後の状況は。

 髙野 公取委の調査に全面的に協力した。結果として当社の法令違反は認められず、調査は終了した。今後も法令順守を徹底し、社会的責任に基づいた事業運営に努める。

 

 ――9月の令和元年台風15号、10月の同台風19号で数多くの宿泊施設が被災した。停電、断水、破損などで、宿泊客を受け入れられなくなってしまった宿も多い。屋根が飛んでしまった宿もあった。停電でPCを立ち上げることができず、予約客に、お断りの連絡ができる手段がない。そこで、各OTAの担当者に連絡し、予約客への連絡を頼んだそうだ。複数の宿から同じ話を聞いたのだが、その内容はこうだ。「JTBはすぐに駆けつけてくれた。キャンセルも全てやってくれた。楽天トラベルもすぐにキャンセル連絡を代行してくれた。小まめに連絡をくれ、支援物資を(おそらく自腹で)届けてくれた担当者もいた。じゃらんは、対応してくれなかった」。

 宮本 まず、台風被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。台風時の対応で、一部の施設の方々から改善要望をいただいた。災害規模の把握が遅れ、通常の災害時のフローで対応してしまったのが原因だ。私たちは、反省し対応方針も変更した。今後はこのようなことで宿泊施設の皆さまにご不便をおかけすることがないようにする。

行きたい観光地

 ――最後にプライベートな質問をしたい。19年に訪れて良かった観光地、20年に訪れてみたい観光地はどこか。

 宮本 観光地ということではないが、19年はラグビーW杯を12試合観戦し、堪能した。20年はオリンピックイヤーなので、五輪を楽しみたい。ただ、チケットは抽選でほぼ外れてしまったので、楽しみ方を思案中だ。

 髙野 19年は阿蘇に行って雄大な自然と素晴らしい泉質の温泉を楽しんだ。食事も本当においしかった。地震で被害を受けた交通網も20年にはさらに回復するので、これまで以上に旅行者で盛り上がることを期待している。

 榊 日本中の非日常を体験できる小規模旅館に行った。20年も数多くの施設を訪れたい。特に印象に残っているのは滋賀県大津市の「比良山荘」。琵琶湖のそばにある料理旅館で、稚アユ、ウナギ、マツタケ、栗、キノコなど地場の旬の食材で料理を出してくれる。最近は、北海道と九州に10部屋以下の高級旅館が増えているので、積極的に訪れるつもりだ。旅館の場合、部屋数が増えると口コミ評価が下がる傾向がある。100部屋の旅館よりも10部屋の旅館の方が、宿泊客の満足度は高いようだ。

 盛崎 山登りが趣味なのだが、19年は残念ながら1度も登ることができなかった。20年は必ず登りに行きたい。宿泊した宿では「あかん遊久の里鶴雅」が周辺の環境も含めて素晴らしかった。ラグビーW杯は3試合観戦した。私は普段あまりビールを飲まないが、観客席の雰囲気にのまれて大いに楽しんだ。20年は沖縄の本島、離島のさまざまなタイプの宿泊施設を泊まり歩きたい。高級リゾートだけでなく、民宿、バケーションレンタルなどに実際に宿泊し、日本で最先端のリゾートエリアで学びを深めたい。

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