金沢の食といえば、料亭や料理旅館の老舗の味がオトナ世代には響く。九谷焼に代表される雅さは、見た目にもおいしく、また訪れたいという気持ちにさせる。
老舗懐石料亭旅館「金城樓」がその一つ。130余年の歴史があり、伝統の加賀料理を美しい器や塗碗、茅の輪の装飾などで楽しませてくれる。この冬、久しぶりに1人で泊まってみた。客室に通されてまず驚いたのは、浴衣や帯を入れた乱れ箱に、おろしたての伊達締めと腰紐、ストレッチの白足袋が収められていたこと。着付けの心得がある人なら、喜ぶことうけあいである。
今回の予約は、一休.comで。ダイヤモンド会員の特典も楽しみで、美しい印度更紗の風呂敷は大樋美術館コレクションのもの。金箔屋さくだの楊枝入れは、自分への褒美になった。宿主の好みなのだろう。良い趣味と感じた。
師走半ばの金沢は雲がかかってどんよりで、ときおり氷雨や小雪に見舞われた。週末には金沢大学で、日本観光研究学会の大会が予定されていた。それを知った教え子たちにせがまれてゼミ合宿を兼ねることになり、早めに金沢入りしたのである。学生たちが安さを求めて泊まったビジネスホテルは、全国旅行支援で宿泊費は実質ゼロ円。地域クーポンを使って近江町市場で新鮮なすしを食べ、兼六園近くでSNS映えする金箔アイスを楽しみ、夕食会では金沢おでんを皆でつついた。
学生の誰もが初めての金沢で、凍えんばかりの天候も、若さはちきれる彼らたちには無関係のようだ。筆者も学生時代に一人旅で、雪の能登半島を周遊バスで巡ったことを思い出した。「社会人になり余裕ができたら再訪して、名旅館に泊まりたい」と、目を輝かせる学生たち。若いころの自分を思い出した。学生旅行が将来のリピーターを育むのは必至だ。ちなみに大学教員の筆者は、出張旅費でホテル日航金沢に連泊し、その中日に金城樓に泊まった。
大学教員の出張旅費は、校務以外は研究費でまかなわれるのが一般的である。旅費規程にのっとり上限が定められている。さらに言えば、研究費の原資は補助金で、税金だから、全国旅行支援は利用できない。もし利用するとなれば、自費出張や私的な旅行になることを申し添える。
さて、金沢を離れる直前、加賀屋グループの料理旅館「金沢茶屋」で昼食をとった。駅近くで立地がよい。エキナカの「日本料理 加賀屋 金沢店」は、ときどき利用するが、金沢茶屋は広々していて落ち着きがある。加賀屋ホールディングスの従業員教育や品質管理などを託された真崎昌久さんが案内してくれた。
冬旅で地域をブランディングするのは、たやすいことではない。特に北陸地方は、入込客の季節平準化が長年の課題として横たわってきた。そこで知恵を絞って生まれたのが、冬の味覚をテーマにした旅だ。なかでも金沢は、冬が旬の香箱ガニやのどぐろなどを丁寧に、上手に売ってきた。料理人の技と伝統美を頂点に、学生旅行も楽しめる回転ずしや市場がそろう。
残念ながら筆者はエビ、カニがアレルギー。金沢茶屋では「加賀焼き ひつまぶし」を頼み、きれいに割り勘。これがまた、絶品だった。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)