【地域創生と観光ビジネス30】多様化する日本の宿 TAOYA秋保とRakuten STAY VILLA八ヶ岳 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 ポストコロナで宿泊施設の多様化が止まらない。キーワードは、「オールインクルーシブ」と「バケーションレンタル」である。豪華客船の船旅や暮らすように過ごすハワイ旅で伝えてきた観光用語が、ついに日本で本格始動した。今年6月12日開業の二つのニューフェイスが、その代表例だ。

 一つは大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツの「TAOYA秋保」(宮城・仙台市)である。TAOYAとは、「ゆったりと、たおやかに」をコンセプトにした大江戸温泉物語では上位のブランドラインで、秋保は3施設目となる。

 「仙台の奥座敷」といわれ、伊達政宗の湯浴み御殿が置かれたことで知られる秋保温泉。藩政時代の1625年に秋保の地で創業した老舗「岩沼屋」は、旅館通なら誰もがご存じだろう。その岩沼屋が事業譲渡されたのはコロナ禍の2020年秋のこと。「大江戸温泉物語 仙台秋保温泉 岩沼屋」として再出発したが、今回のリブランドで400年近い屋号が消えた。団体旅行全盛の1995年に新館を建てたが、バブルがはじけて多額の負債を抱えていたという。

 TAOYA秋保は、会席料理が主の岩沼屋時代とは異なり、夕食もバイキング形式になった。といってもチープなバイキングではない。ライブキッチン形式で、最高料理顧問・高階孝晴シェフがプロデュースする本格派バイキングだ。新たに露天風呂も増設した。特筆すべきは「オールインクルーシブ」を採用している点。アルコールを含む料飲は全てが宿泊料金に含まれる。伝統的な薫りを残しつつ、ロビーまわりや客室は、若者も喜びそうなスタイリッシュな内装に変貌した。

 もう一つが楽天ステイの「Rakuten STAY VILLA 八ヶ岳」(山梨・北杜市)。

 ハワイ・リピーターならご存じの人気の一棟貸し「バケーションレンタル」方式で、しかも無人営業が特長。鍵の受け渡しはなく、事前にメールで通知された鍵番号で開錠するスマートロック方式を採用する。チェックイン・アウトは室内タブレットで行うため、誰かに会うこともない。警備会社の緊急駆け付け防犯システムを導入しており、万一のときにも安心だ。

 全9棟、2階建てメゾネットタイプで、ジャグジー付きの風呂や全自動ドラム式洗濯機、家電製品や調理器具、調度品などが揃う。玄関前には駐車スペースが確保され、EV充電器も完備。まるで別荘感覚だ。自己所有の別荘は皿洗いや掃除など後片付けが面倒だが、それも不要。専用庭や室内でのBBQ用に鉄板焼きグリルも備え付けられ、肉や野菜を買い込めば、すぐに調理が始められる。楽天市場の人気商品も試用できる。

 楽天ステイが運営するサイト「Vacation STAY」は、こうしたバケレン専用の予約サイト。五輪ムードで新規参入したもののコロナで退場を迫られた民泊事業者が、楽天ブランドで施設登録することができ、すでに10万室以上が登録済み。予約流入経路には、「楽天トラベル」などの宿泊予約サイトも含まれる。エアビーやバーボといった外資勢がシェアリングエコノミー市場で群雄割拠するなかで、和製バケレンサイトから目が離せない。

 時流に乗った、「機をみて敏」のビジネスモデルである。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)   

 
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